夢想都市《鳴兎子(なうね)



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●《鳴兎子(なうね)》とは

 《鳴兎子(なうね)》は、東北地方の南部あたりに設定された、周囲を山々に囲まれた直径およそ50kmほどの盆地である。

 盆地のほとんどは《鳴兎子湖(なうねこ)》と呼ばれる広大な湖に満たされており、湖より湧き出す霧が常に湖を覆い、盆地を満たし、周囲の山々にまで広がって、幻想的で謎めいた、そして不気味な風景を生み出している。

 湖の周囲、そして周囲の山々の一部が、人々が生活を営む場であり、いまだ人の気配の薄い霧の原野に、漁村や山村、そして《夢想都市》の本体、《鳴兎子市(なうねし)》が散らばっている。人の生活の領域と言えど、いや、なればこそ、人の心の闇が堆積し、惨劇や呪詛を秘め隠した因縁となって、冷たく乾いた合理性を装った生活に、呪われた触手を絡みつかせている。

 《鳴兎子》の山々には、盆地には、そして湖の島々には、その意味を推し測ることすら困難な、奇妙な古の遺跡が点在し、


●《鳴兎子》その特徴

 日本に、宇宙的恐怖のしろしめす地を創ろうという試みは、鳴兎子が最初ではない。

 蔭洲升、赤牟、九頭竜川――と、実在非実在を問わず、個々の神話作品の舞台が創られて来たし、アンソロジー『秘神』では、まさにそうしたコンセプトの下に、海辺の町《夜刀浦》が創造され、数多のプロ作家による参加がなされた。
 邪神に呪われた土地を日本に創る、というだけなら、舞台をさらに設定する必要は特にないだろう。

 鳴兎子には、こうした従来の土地に見られない、いくつものユニークな特徴がある。特徴は同時に、創作物の内容を縛る恐れを同時に備えてはいるが、こうした特徴を巧く用いる事は、必ずや邪神譚をさらに恐怖と魅力に満ちたものとするだろう。


・位地

 鳴兎子は、東京駅および新潟駅から電車を乗り継いで約5時間、仙台から電車を乗り継いで約2時間、およそ東北地方の南部に位置する。

 東北は古代より、中央政権の力の及ばぬ土地であり、まつろわぬ民の最後の王国として、神秘と怨念、ロマンに彩られた物語を織り成してきた。
 蝦夷、阿弖流為、奥州藤原氏といった東北の諸勢力は、中央勢力に対する強固な闘争を展開し、その戦いが日本に及ぼした影響は、神武天皇に敗れた大和の旧勢力が東北へ逃れ、先住部族や渡来人とともに東日流王国を打ち建てたとする『東日流外三郡誌』、魔物・反逆者との戦いを伝奇と怪異で描いた英雄譚『田村の草子』『田村三代記』といった物語を産み出すほどに大きなものであった。

 東北を舞台に神話作品を展開する試みは、日本の深部とも言えるこの地の歴史と宇宙的恐怖を結合させ、この地に生きた古の民の遺産を通じて、太古よりの超越的恐怖を具現する事ができる。
 東北の入口、すなわち、中央とまつろわぬ民の争いの前線に位置付けられる鳴兎子の地はまた、過去に消え去った剣戟と流血、それにまつわる激動の歴史の影に隠された闇黒と妖魅の物語を無数に秘めていることだろう。


・山々

 鳴兎子は内陸に位置し、しかも周囲を山々に囲まれた盆地である。この山々は当然ながら周囲との交通を阻み、鳴兎子全体を巨大な魔の結界としている。

 また、山とは、日本においては地理的障害というだけではない。
 古代には、人間の侵すべからざる、神々の棲む聖地とされ、時代が下ると、平地の農耕民や都市民とは異なる世界を持つ「山の民」と呼ばれる人々や、修行に生き神秘を駆る修験者の闊歩する別世界となった。

 すなわち日本においては山とは、人智の及ばぬ異界なのである。
 その山に四方を囲まれた鳴兎子は、『海の魔界』として設定された夜刀浦や蔭洲升とは様相を異にした、『山の魔界』と呼ぶにふさわしい土地であり、日本の土俗により繋がった、新たな邪神譚を産み出し得る土壌を備えている。


・霧

 鳴兎子盆地は深い霧に閉ざされ、山々にも、森にも、湖にも、そして町にも、白く濃い霧が満ち、人々の視界を遮り―――悍ましいものをその向こうに秘め隠している。

 人は、見通すことが出来ないがゆえに夜の闇を怖れ、そして朝の到来を待ち望んできた。いかな呪われた地であろうと、日はまた必ず昇り、恐怖や呪いは一時の撤退を余儀なくされる。

 が、鳴兎子では、例え日が昇ろうとも恐怖が去るとは限らない。霧という白い闇が君臨し、内に恐怖を秘めて跋扈するのである。宇宙的恐怖譚の傑作『喰らうものども』の舞台となった、マリガンの森に漂っていた霧と、ロンドンが流血と恐怖の都と化した夜を支配した霧と同種の霧が――。


・湖

 ラヴクラフトの『インスマスを覆う影』『クトゥルーの呼び声』といった諸作品に端を発し、『永劫の探求』『闇黒の口づけ』『盗まれた眼』『深海の王者』などなど、今やクトゥルー神話を演出する際に「水」は欠かせない。
 山に囲まれた内陸の鳴兎子だが、この「水」を豊富に有しているのだ。鳴兎子盆地のほとんどを満たす、霧に覆われた鳴兎子湖がそれである。

 しかし、この湖は内陸の土地にやむを得ず設けられた海の代用品などでは断じてない。思い出してみて欲しい。ネス湖に代表される湖の怪異の物語を。『闇に棲みつくもの』のリック湖、『湖の住人』の幽霊湖、『サルナスの災厄』のムナールの湖で展開されてきた宇宙的恐怖を。

 果てしなく広がる海とはまた異なり、区切られているがゆえに、湖水の恐怖はその密度を増し、いっそう深いものとなって、人間を恐怖の深淵へと引きずり込むのである。





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