矮人族 (little people/小人族) | |
特になし | |
独立種族? | ***** |
西洋の小人族・妖精などの伝説の影にあると思われる存在であり、アーサー・マッケンの『怪奇クラブ』内「黒い刻印」の物語に記される、イングランド西部、ウェールズに近い町カエルマイン(Caermaen)付近の村にある丘、グレイ・ヒルの一帯に発生する怪事の背後に跳梁する存在。 イギリスの高名な人種学の権威であるウィリアム・グレッグ教授は、所有するバビロンの遺跡から発掘された黒石に刻まれた楔形文字と同種のものがグレイ・ヒルの石灰岩に刻まれていることを知り、北イギリスの博物館で発見した同種の石印を比較研究して解読に成功し、人間の肉体が爬虫類のように原始的なものとなりうる恐るべき秘密を読みとった。 後にグレッグ教授は矮人の伝説の実在を調査するべくグレイ・ヒルのある村に赴き、グレイ・ヒルにて矮人に襲われたと思しい未亡人が産んだ少年ジャーヴェイズ・クラドックを発見した。グレッグ教授が、黒い石印に記されていた処置を施したところ、ジャーヴェイズの体から粘液に塗れた触手が伸びるのを目撃する。 矮人族の実在を確信したグレッグ教授は、矮人と邂逅するべくグレイ・ヒルに向かったが、後にグレイ・ヒルにて、羊の腸糸で括られた羊皮紙に包まれた教授の遺留品だけが発見され、包みの表面には黒い楔形文字が書かれていたという。 この「矮人族」の仕業とおぼしい山中の殺人事件において、古代の石斧が凶器として発見され、それは現代人に扱えるものではなかったという要素は、やはり矮人伝説とかかわる大地の妖蛆の登場するR・E・ハワードの『夜の末裔』とも共通する。マッケンの『輝く金字塔(The Shining Pyramid)』にはさらに大地の妖蛆に似通った矮人族も登場しているが、この作品における矮人族は、さらに非人間的な原形質に近い存在のようである。『ネクロノミコン』においてシュブ=ニグラスが支配するとされる「森のニュンペー、サテュロス、レプレコン、矮人族」は、伝説中に描かれるような姿のものではなく、こうした太古の不定形の生命を指すのかもしれない。 「黒い刻印」においてはまた、ソリーヌス(おそらく3世紀ローマの著述家ガイウス・ユリウス・ソリヌス)の記す、リビアの秘境に住んで日光を避ける、人間の顔を持つという以外はまったく異質な存在である生物の崇める「六十石」「IXAXAR」という石が、グレッグ教授の発見した石と同様のものであるとほのめかされている。 辺境に孤立して棲む奇怪な矮人族といえばミリ=ニグリがいるが、ミリ=ニグリもまたチャウグナル・ファウグンによって「蟇蛙の肉から」創りだされたと伝えられており、やはり原始的組織からなる生物であると想像される。 また、同じく『怪奇クラブ』内「白い粉薬のはなし」や、『パンの大神』にも動揺に、人間から退化・堕落のプロセスを経た黒い粘液状の存在が描かれており、いずれも矮人族と同じく古い伝説の存在と結びついている。いずれも同様の、知られざる奇怪な生命の秘密に係わっているのかも知れない。 ただし『怪奇クラブ』全体の流れを見ると、「黒い刻印」「白い粉薬のはなし」の内容は、作り話である可能性があるため、これらの話の扱いには注意が必要であるかもしれない。
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A・マッケン『怪奇クラブ(Three Imposters)』 |
ワンプ (Wamp/特になし) | |
特になし | |
独立種族 | ***** |
『夢の国』の廃都に生まれる生物で、「赤足のワンプ」と呼ばれている。食屍鬼が活動しない『夢の国』の墓場で、死体を掘り起こして喰らっているらしいが、それ以外については姿も語られていない。 ケイオシャム社のTRPG『クトゥルフの呼び声(The Call of Cthulhu)』では、スミスの『ヨンドの妖異』に登場する無名の怪物をワンプとしている。 それは、妊娠した雌山羊ぐらいの大きさで、体は巨大な蜘蛛のような、多くの縁どりがついた、ぐらつく九本の脚の上に、青白く毛のない卵のような形の胴体が乗っている。奇妙に傾いた顔には一つも目がなく、ナイフのような形をした二つの耳が頭の上に突き出ている。『クトゥルフの呼び声』ではさらに、「赤足のワンプ」の名にふさわしく、足の先端が深紅の塗料をはねかけたように、あるいは、血溜まりを歩いて渡ったかのようになっている、としている。 目がなく、耳が大きいのは洞窟に棲んでいるためかも知れないが、外での活動に支障はないらしく、邪悪なふくみ笑いのような声を立てながら走り回る。
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H・P・ラヴクラフト『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』 C・A・スミス『ヨンドの妖異(The Abominations of Yondo)』(未邦訳) |
ンガ=クトゥン (N'gha-Kthun/ンガア=クトゥン) | |
特になし | |
旧支配者 | 旧支配者? |
『ハスターの帰還』において、ポール・タトルが叔父エイモスの蔵書から得た知識として、数々の〈旧支配者〉の名と共に言及した名。〈旧支配者〉の一体とも考えられるが、小説作品で描写されることはほとんど無く、謎の存在となっている。 なお、ヒールドの『博物館の恐怖(The Horror in the Museum)』で、ロジャーズがジョーンズを「クトゥンの汚物(effluvium of K'thun)」と罵っているが、ンガ=クトゥンに関係があるのかどうかは不明である。 TRPG『クトゥルフの呼び声』においてデータと設定が考えられているが、それによると惑星トゥンツァ(Tthunngtthua)の地下に広がる亜硫酸の海に潜む旧支配者だと言う。無数のおぞましく震える触手の生えた球状の体を持ち、頭頂部にある大きな口からは、聞いた者を麻痺させる嘲笑うような声を漏らし続けている。ンガ=クトゥンが殺されてしまった場合、ンガ=クトゥンを崇拝する惑星トゥンッアの住民の一体が急激に成長し、新たなンガ=クトゥンになるという。
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A・W・ダーレス『ハスターの帰還(The Return of Hastur)』 |