サイクラノーシュ (Cykranosh/サイクラノッシュ) |
特になし |
惑星 |
太陽系第六番惑星 |
古代ヒューペルボリアのムー・トゥーラン半島における土星の呼び名。 ただ、スミスの『魔道士エイボン』の舞台となっている土星は現在知られているような液体金属や気体金属の星ではなく、地球とはかけ離れた環境ではあるものの生存可能な世界である。 ツァトゥグァが地球に飛来する前に棲んでいた星であり、フジウルクォイグムンズハーをはじめとする、ツァトゥグァと縁を持つ神性が未だに棲み、住民に崇拝されているという。 液体金属の湖、灰色の砂漠、サボテン状鉱物生命や菌類の林、山岳などの地形が存在し、また、頭を持たないブフレムフロイム、翼のない鳥人ドジュヒビ、おしゃべりな小人エフィク、地底に隠れ住むグロング、神々を熱心に崇拝するイドヒームなどの種族が存在する。
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C・A・スミス『魔道士エイボン(The Door To Saturn)』 |
ザル (Zar/ザール) |
忘れ去られた夢の国、忘れ去られた夢の棲家 |
都市 |
『夢の国』 |
『夢の国』にある土地。ラヴクラフトの『白い帆船(The White Ship)』で白い帆船に乗り込んで航海に出た灯台守バザル・エルトンが最初に目にした土地。 海から堂々と聳え立つ台地に新緑の若葉を誇る木々やきらめく風変わりな神殿が立つこの地には、人間に訪れながらも忘れ去られた美の夢や想いがことごとく留まっているといわれ、この地を眺めていると、そうした夢やヴィジョンが目に浮かんでくる。 しかし、ザルの草原を踏み歩く者は二度と故郷の海岸に戻る事はないといわれているため、白い帆船はこの地より離れるのである。故郷を愛したラヴクラフトの心情が表れていると言えるだろう。 『白い帆船』を心理学の観点から捕えた、D・モジッグの「『白い帆船』―心理学的オデュッセイ」によると、ザルは《個人的無意識》であり、この地に立った者が故郷に戻ることはないというのは、無意識下に抑圧されたものが意識的な思考の領域に戻りはしないことを指しているという。 この地に満ちる美と夢を選びとり、故郷に訣別する者がどのぐらいいるのかは分からないが、『』では、不思議な色をした百合の根を積んでザルを目指して南海を渡る、菫色の帆を張った船が登場する。
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H・P・ラヴクラフト『白い帆船(The White Ship)』 『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』 |
サルナス (Sarnath/サーナス) |
世界の驚異、人類なべての誇り |
都市 |
太古の地球or「夢の国」 |
一万年前、ムナールの、通じる川を持たない静まり返った広大な湖のほとりに存在した邑。ムナールに到来した最初の人類である、蛇行するアイ河に添ってトゥラー、イラーネック、カダテロンの 遊牧民がムナールにサルナスの礎石を置いたとき、そこにはすでに、ボクラグの石像を崇拝する、緑色の異形の生物の棲む灰白色の石造りの邑イブが存在した。サルナスの住民はイブの住民の異形と、恐ろしい彫刻の施された灰白色の独立石を憎み、ついには戦士を派遣し、イブの住民をすべて屠って、その異様な死体と灰白色の独立石を湖に投じ、イブを破壊すると、征服の象徴とムナールの統治権のしるしとしてボクラグの石像をサルナスの神殿に据えつけた。 しかしその晩、不気味な光が湖上に見え、朝になるとボクラグの彫像が消えうせていた。そして、大神官のタラン=イシュが、貴橄欖石の祭壇に災厄の徴を書き残し、何かの恐怖に襲われたように倒れふして事切れていた。 その後、イラーネックとの間に隊商路が設けられて、サルナスの貴重な金属がアイ河流域の金属、織物、宝石、書物、職人の道具などの贅沢品と交易され、サルナスは力と学問と美をいよいよ高めた。そして、征服部隊を送り出して近隣の邑を支配してゆき、ついにはムナール全土及び隣接地域を支配するに至った。 サルナスは大理石の巨大な城壁と、湖に設けられた緑石の防波堤に護られ、無数の通りと門を擁し、サルナスの家屋は化粧煉瓦と玉髄から造られており、全て壁に囲まれる庭園と水晶のような池を持ち、燦然たる円蓋をいただく、他の 宝石と壁画で飾られた、あまりに高くそびえる数多の宮殿は、最小のものすらトゥラー、イラーネック、カダテロンをしのぎ、塔のごとくそびえる17の神殿は、他所では見られぬ七色の石で造られ、王に等しい威光を放つ大神官たちが住み、一階の広大かつ壮麗な広間では、サルナスの三神、ゾ=カラール、タマシュ、ロボンの生き写しの像に香が焚かれた。 サルナスの しかし、イブ陥落一千年を祝う饗宴の日に、サルナスを突如、災厄が襲った。豪奢を極めた大饗宴が都のいたる所で繰り広げられている最中、最初に、大神官ナイ=カーが、月からいくつもの影が湖に下り、湖から立ち上る緑色の霧が月に達してその不気味な光でサルナスの塔や円蓋を包み、岸辺近くにそそり立つ灰白色の岩アクリオンが水中に没しかけているのを目にした。やがて漠然とした恐怖が広まり、真夜中が近づくころには、全ての門から狂乱した群集が逃げ出した。王宮の宴会の広間では、ナルギス=ヘイ王や貴族たちの姿が消え、イブの住人のごとき緑色の化物どもが恐ろしい舞踏に興じていた。 かくして災厄に見舞われたサルナスは霧に包まれ、灰白色の岩アクリオンは完全に水中に没した。もはやサルナスの貴重な金属は見つからず、かなりの歳月の後、金髪碧眼を持つファロナの勇敢な若者たちがサルナスをながめるべく湖まで足を伸ばした所、静まり返った湖とその岸辺近くにそそり立つ灰白色の岩アクリオンこそ見られたものの、かつてサルナスがあった場所にはただ湿地帯のみが広がり、忌まわしい緑色の蜥蜴が這い回っているだけだった。 しかし、藺草になかば埋もれた、ボクラグを象った古い緑色の石像が見つかり、イラーネックの大神殿の聖堂に祀られ、月が半月から満月に向かう間、ムナール全土で崇拝された。 |
H・P・ラヴクラフト『サルナスを襲った災厄(The Doom that Came to Sarnath)』 |
サンティアゴ (Santiago) |
特になし |
郡、都市 |
北米、太平洋岸 |
カリフォルニア南部にある架空の郡・都市であり、リン・カーターによって創造された郡および都市の名。 この地の最大の特徴は、サンボーン太平洋古代遺物研究所(The Sanbourne Institute of Pacific Antiquities)が存在することであろう。 この施設は、ハロルド・ハドリー・コープランド(Harold Hadley Copeland)教授が残した蔵書や考古学遺物を擁しており、クトゥルー、およびカーター作品でその子とされているガタノトーア、イソグサ、ゾス=オムモグとその崇拝に関する情報を大量に保管している。 また、この街の数マイル南には、ダンハム・ビーチという荒廃した町が存在し、とりわけハッブルズ・フィールドという土地は先住民であるヒパウェイ族(Hippaways)が「エ=チョク=タ(E-choc-tah)あるいは「ワームの地」と呼んだ忌み地であり、1920年代には先住民時代からの数百におよぶ遺体が発掘された土地である。 この地に住んでいた神秘研究家ハイラム・ストークリイの家には、クトゥルー神話作品に登場する小説家の著作が大量に保管されており、英語版『ネクロノミコン』とフランス語版『エイボンの書』までも秘蔵されていた。 また、ロバート・M・プライスの作品では、カーターの作品に登場する神秘研究家アントン・ザルナック博士の住居が、ニューヨークからサンティアゴのオリエンタル・クォーターのチャイナ・アレイ13番に移されており、博士はストークリイ邸にまつわる怪事件に活躍することになる。 おなじくカリフォルニア州南部に位置するロサンゼルス一帯も、数多くの神話作品の舞台となった土地だが、とくにサンティアゴとの関わりはない。
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L・カーター『時代より (Out of the Ages) 』 『陳列室の恐怖 (The Horror in the Gallery) 』 『ウィンフィールドの遺産 (The Winfield Heritance) 』 ロバート・M・プライス『悪魔と結びし者の魂 (The Soul of the Devil-Bought) 』 |
シャガイ (Shaggai/シャッガイ) |
暗黒世界、旧き星、凶運の星 |
惑星 |
他銀河系 |
宇宙の最果てにある、エメラルド色の炎を吹き上げる二つの太陽に照らされる惑星。灰色の石の荒野、黒い液体のうねる海、血を吸う糸状菌の這い回る、地獄のようなジャングルなどがある。 球状の家の立ち並ぶ冷たい灰色の金属の都市には、この星の支配者である知性を備えた昆虫族が棲んでいる。各都市の中心には、面が鋭角を成す金属のピラミッドがあるが、これらは昆虫族の崇拝するアザトースの神殿である。 リン・カーター『シャガイ』では、シャガイの北極の不毛の高原には、宇宙の他の何処にも同じ規模の建造物が見られない程の巨大なピラミッドが建っている。このピラミッドの内部には巨大な空洞があり、やはり信じられないほど巨大な底無しの穴が口を開けている。 そこでは蠕動する、白いゼリー状のおぞましい巨大な怪物がシャガイそのものを侵食している。この怪物は、かつて昆虫族が傲慢にも召還し、この星に滅亡を呼んでしまったものである(惑星を滅ぼす、地中を穿つ、という性格から見て、ドールかも知れない)。 しかし、シャガイの最後は、この怪物に喰らい尽されるというものではなかった。ある日、突然に宇宙から訪れた赤い半球状の物体がシャガイに降りたのである。 物体が放った赤い閃光を浴びたものは全て、同様に赤い光を放ち、白熱して四散した。かくしてシャガイは消滅し、昆虫族も防護装置のあるアザトースの神殿内部で光を避けたものだけが宇宙へと逃げ延びたのである。
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R・キャンベル『妖虫(The Insects From Shaggai)』 L・カーター『シャガイ(Shaggai)』 |
シュトレゴイカバール (Stregoicavar/特になし) |
村 |
ハンガリー |
山岳地帯にある小さな村で、その名は「魔女の村」という、ひっそりとした佇まいに似合わない不吉な意味を持つ。 村の近くにある山には、高さ16フィート、差し渡し1フィート半程の黒い碑が立っている。この碑は未知の黒い石で造られ、表面にはやはり未知の文字が螺旋状に刻まれているが、これに似た碑がメキシコのユカタン半島にも存在するという。また、ホンジュラスの遺跡『蟇の神殿』の奥に収められているミイラの首にも、かすかに似た象形文字の刻まれた、蝦蟇の形の赤い宝玉がかけられている。この碑と同様に、R・E・ハワードの創作になる矮人族『大地の妖蛆』も〈黒の碑〉と呼ばれるものを崇めていたが、同じものかどうかは不明である。 かつてこの地が「ズトゥルタン」と呼ばれていた頃、邪教を崇める奇怪な民族がこの地に暮らしており、マジャール人やスラブ人の住む下方の谷から生け贄を攫って来てはこの碑に捧げ、碑の頂上に巨大な蝦蟇に似た奇怪な存在を召喚する儀式を行っていた。だが、1562年にこの地方にオスマン・トルコ軍が攻め入り、ズトゥルタンの住民を一掃した。その時に丘の下方の冥い洞窟から膨れ上がった蛙に似た怪物が現われ、トルコ軍は炎とムハンマドの聖剣、太古の呪文でようやくこの魔物を滅ぼしたという。 現在では、村には下方の谷から上ってきた普通の人々が暮らしているが、村の住民に忌避される碑はまだ残っている。碑の近くで眠り込んだ者は、夢の中でかつての恐ろしい饗宴とおぞましい邪神の降臨の再現を目のあたりにする事になる。この碑は、ドイツの奇人フリードリッヒ・フォン・ユンツトの『無名祭祀書』やアメリカの狂気の詩人ジャスティン・ジョフリの『石碑の民』の中でも触れられている。 『無名祭祀書』によると、〈黒の碑〉は「異界への扉の鍵」の一つであり、ある遥かな古代世界をこの現代世界への諸空間に通底させるものであるという。また、〈黒の碑〉は単なる碑ではなく、山中に埋もれた巨大な黒い古代の城砦の尖塔に過ぎず、蛙に似た怪物が現れた「洞窟」も天然のものではないらしい。
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R・H・ハワード『黒の碑(The Black Stone)』 |
ズーラ (Xura/特になし) |
歓楽かなわぬ土地、納骨堂庭園 |
土地 |
『夢の国』 |
ラヴクラフトの『白い帆船(The White Ship)』に登場する『夢の国』の土地であり、灯台守バザル・エルトンの乗りこんだ白い帆船が、タラリオンの次に通過した場所。 この地の海岸にはあらゆる色の花が咲き乱れ、内陸では見渡す限りさわやかな林が広がっている。そして、笑い声と共に美しく調和した歌声が彼方から響いてくる。 だが、そこから吹いてくる風の香りを嗅いだ時、この地の不吉さが明らかになるだろう。美しい庭園から漂って来る風はおびただしい死臭にみなぎっているのだ。ゆえに白い帆船はこの地を通り過ぎ、長い航海の果てにソナ=ニルの港にたどり着くことになる。 この土地の正体は明かされていないが、『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』でランドルフ・カーターはこの地を「納骨堂庭園」と呼んでいる。 D・モジッグは『白い帆船』を心理学の観点から捕えた『『白い帆船』―心理学的オデュッセイ("The White Ship" The Psychological Odyssey)』の中でズーラを、不合理な情動と隔世遺伝的本能の住む≪集合無意識≫の上層部と解釈する説を唱えている。
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H・P・ラヴクラフト『白い帆船(The White Ship)』 『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』 |
ステテロス
(Stethelos/特になし) |
特になし |
不明 |
不明(『夢の国』?) |
旅人イラノンが目にした土地の一つ。大瀑布の下にあるという以外は何も記されていない。至上の美を求めて旅を続けるイラノンの気には入らなかったらしいことが知れるのみである。 『イラノンの探求』に先立つと思われる『緑の草原(The Green Meadow)』にも、すでにこの名が登場している。米国メイン州ポトワンケット村沖の海に落下した隕石の中から発見された、謎めいた石質の物質から作られた冊子の書き手(恐らくは前2世紀のギリシャ人)が、海の上を流れる陸地の向かう、大瀑布の音が鳴り響く流れの先にあると書いている。 夢の中のような『緑の草原』の内容から、ステテロスが書き手の目にした「緑の草原」を指すのか、それともその先に大瀑布があってそのさらに先に位置するのかは不明だが、『イラノンの探求』での素っ気ない記述とは打って変わった謎めいた恐ろしげな描写がなされている。「果てしなく年老いた若者たち」がいると書かれており、ステテロスと「緑の草原」が同一とすれば、恐ろしくも魅惑的な太古の歌を歌う、口にするもはばかられた恐るべき存在がそこにはいるのである。
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H・P・ラヴクラフト『緑の草原(The Green Meadow)』 『イラノンの探求(The Quest of Iranon)』 |
セーレム (Salem/セイレム、セーラム、サレム) |
特になし |
都市 |
アメリカ、マサチューセッツ州 |
アーカムのモデルと言われるこの町は、ボストンの北にある実在の町であり、市名はヘブライ語のシャローム(Shalom、平和)に由来する。 東京の大田区、品川区で大森貝塚を発見したモース博士が、帰国後、ピーボディ科学アカデミーの館長になった事から、セーレム市は東京都大田区と姉妹都市となっている。また、『緋文字』などの作者であるホーソーンや、東京美術学校の創立者であるフェノロサの出身地でもある。 ラヴクラフトがよく作品中で言及している「魔女裁判」は、1692年から1693年にかけて実際にあった事件である。 セーレム市内には、魔女裁判の裁判官が住んでいた『魔女の家』があり、現在では観光名所となっているが、ラヴクラフトの『魔女の家の夢』の舞台となるアーカムの魔女の家はこの家をモデルにしている。 セーレムそのものを舞台にした作品では、カットナーの『セーラムの恐怖(The Salem Horror)』がある。この作品では「魔女地区」にある、魔女アビゲイル・プリンの家にまつわる恐怖が展開されている。 アビー・プリンの家は、切妻屋根と奇妙な菱形ガラスの嵌った開き窓を持つ老朽した二階建てだが、地下室にの壁にある石の隠し扉から、魔女の隠れ処に入ることができる。隠し扉から15フィート(約4メートル57センチ)ほど続くトンネルの先にある広間の壁は青、緑、紫などの小石で造られたモザイクで、奇妙なパターンを描いている。模様の中心は部屋の中央にある大きな黒い円形の石であり、この黒い石の上に立つ者は波動の影響によって、眠っている間アビー・プリンの意のままに動くようになってしまうのだ。 壁には謎めいた印の微かに残る浅い
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H・カットナー『セーラムの恐怖(The Salem Horror)』 |
セレファイス (Celephais/特になし) |
瑰麗なる都 |
都市 |
『夢の国』 |
夢見る者クラネスが『夢の国』に創造したオオス=ナルガイの瑰麗なる都。 汚れのない大理石の城壁の上には、磨き抜かれた青銅の彫像が立ち並んでいる。都に入って青銅の門を次々とくぐった先の都には、きらめく光等が立ち並び、通りには縞瑪瑙が敷かれている。円柱通りを抜けると、交易商人や船員、海と空が出会う領域からやってきた風変わりな者たちが集う、海に面する城壁があり、ガレー船の軽やかに進む海や、岸辺から堂々とそびえるアラン山を眺めることができる。ナラクサ河が海と接するところには巨大な石橋がかけられている。 都の背後のなだらかな丘陵には、木立や不凋花の園や小さな聖堂、百姓屋が点在し、そのはるか彼方には、タナール丘陵が紫がかる尾根を覗かせている。 オオス=ナルガイには時が存在せず、永遠の若さがあるだけなので、青銅の大門も、縞瑪瑙が敷かれた道も、大理石の城壁に並ぶ青銅の彫像も、蘭の花冠を戴く神官達が奉職するナス=ホルタースのトルコ石の神殿も、造られた当初から微塵も損なわれていない。都に暮らす人々も同様である。 ナス=ホルタースがもっぱら崇拝されているために、大いなるものどもの影響力は若干薄いようだが、大いなるものどもの全てが日課書に書き留められ、神官はそれなりに大いなるものどもの機微に通じている。 オオス=ナルガイの創造主にして王であるクラネスは、セレファイスの、薔薇色の水晶でできた〈七十の歓喜の宮殿〉と、天空のセラニアンと交互に君臨していた。しかし現在では、故郷であるイギリスのコーンウォール半島、トレヴァー・タワーズの田園地帯を懐かしむ余り、都の東、タナール丘陵の裾野から海の断崖に広がる草原に故郷を再現して、その地で暮らしている。 都には、ファロス灯台に照らされる香料の香りの漂う埠頭があり、セラニアンへは、空へと通じるセレネル海を船で渡り、海と空が出会う領域を越えて行く。また、二昼夜かけてセレネル海を渡ると大交易都市フラニスに、北へ二十二日の航海をするとインクアノクの地に辿り着く。
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H・P・ラヴクラフト『セレファイス(Celephais)』 『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』 |
ソナ=ニル (Sona-Nyl/特になし) |
夢幻の地 |
土地 |
『夢の国』 |
ラヴクラフトの『白い帆船(The White Ship)』に登場する『夢の国』の土地であり、灯台守バザル・エルトンの乗りこんだ白い帆船が、ズーラを経てたどり着いた場所。 この地には時間も空間も、苦しみも死も存在しない。緑に包まれた木立や牧草地、色鮮やかでかぐわしい花々、さわやかな音を立てる青いせせらぎ、冷たく冴え渡った泉、堂々として豪奢な神殿や城邑―――といった美しい自然と建物がどこまでも続き、そこには果てがない。この地を自在に歩く民は一人残らず、無傷の優雅さと至純の幸福に恵まれている。 バザル・エルトンはこの夢幻の地で永劫とも思える時を過ごしたが、この理想郷に飽き足らず、遥かなるカトゥリアにさらなる美と至福を夢見て、存在すら定かではない伝説の地へと船出することになる。 D・モジッグは『白い帆船』を心理学の観点から捕えた『『白い帆船』―心理学的オデュッセイ("The White Ship" The Psychological Odyssey)』の中で、自我が無意識の力と調和した状態、事実上の自己実現を達成し、潜在的に持っていた審美的能力の全てを発揮した状態に到達した段階を表しているとしている。内界と、客観的現実たる外界との均衡もほぼ完璧に保たれ、自我と世界が調和している状態だという。 とすれば『白い帆船』のこのくだりは、そのような理想的な状態にすら満足せずにさらなるものを求めずにいられない、人の宿業を謳っていると言えるだろう。
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H・P・ラヴクラフト『白い帆船(The White Ship)』 『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』 |