アーカム (Arkham/特になし) |
都市 |
アメリカ合衆国ニューイングランド地方マサチューセッツ州 |
米国東部のニューイングランド地方マサチューセッツ州に位置する都市。変化を容易に受け入れないこの古い町は、昔から様々な伝説が語り伝えられてきた。町に広がる、セーレムから逐われた魔女達が潜んでいたともいう駒形切妻屋根の家々の中には、異次元へと繋がるものもあるという。町の中央を流れるミスカトニック河の中にある無人島では、今も尚、魔女達の集会が執り行われる事がある。 また、町の中央にあるミスカトニック大学の図書館は禁断の魔道書、資料の一大保管所であり、大学は多くの怪事件の焦点となっている。 アーカムの怪異は町の中だけに留まらない。西の丘陵地帯には原生林や暗く狭い渓谷、無人の農場が点在し、その彼方には「焼け野」と呼ばれる奇怪な荒野が広がっている。北方のアイルズベリイ丘陵地帯には不吉な事件の記憶を留める村落があり、「ビリントンの森」と呼ばれる暗い原生林が広がっている。
近隣には、東隣の港町キングスポートを始め、魔女狩りの行われたセーレム、呪われた漁村インスマス、ミスカトニック上流の不吉な事件の絶えない寒村ダニッチ等がある。 |
H・P・ラヴクラフト『魔女の家の夢(The Dremas in the Which-House)』 『戸口にあらわれたもの(The Thing on the Doorstep)』 R・ブロック『窖に潜むもの(The Creeper in the Crypt)』 F・ライバー『アーカムそして星の世界へ(To Arkham and the Stars)』 |
アイ河 (River Ai/特になし) |
土地 |
ムナール |
伝説に語られる蛇行する河。ほとりには髪の黒い羊飼いの民によって築かれた邑、トゥラア(Thraa)、イラーネック(Ilarnek)、カダテロン(Kadatheron)がある。これらの邑はムナール及びイブ、やはり羊飼いの民によって築かれたサルナスに関りが深い。 サルナスとの間に隊商路を設けていたイラーネックでは、ある日イブのイブの住民が火を発見してボクラグ崇拝の儀式に用いるようになった事を伝えるパピルス文書が遺され、大神殿に、ボクラグの石像が祀られている。 また、カダテロンの粘土板にはイブの住民の姿と、イブの邑と住民とムナールの湖がある夜に霧に包まれて月から降りてきたという伝説が記され、煉瓦の円柱にイブの住民の素性、歴史の一切が記されているともいう。
一説にはこれらは全て『夢の国』に存在するものであり、トゥラア、イラーネック、カダテロンは美しい品物と引き換えに、北方のインクアノクから縞瑪瑙を輸入しているという。 |
H・P・ラヴクラフト『サルナスを襲った災厄(The Doom that Came to Sarnath)』 |
アイラ (Aira/イーラ) |
都市 |
??? |
大理石と緑柱石の魔法都市、大理石都市 |
放浪の歌い手、イラノンが生涯かけて探し求めた美しい都。イラノンの言によると、その美しさは想像を絶するもので歓喜なくして語ることもできないという。イラノンは自分を、この都市の王の追放された息子であると語り、その歌はアイラで学び取ったもので、アイラで暮らした子供のころの記憶に残ったもので美を創っているという。 アイラは、ヤスの木々(Yath-trees)が繁る丘を臨み、穏やかに澄んだ蛇行するニトラ(Nithra)河むこうの暖かく芳しい林、青々とした谷を流れるクラ(Kra)川の滝などでは、子供たちが互いに花輪を作りあう。 都に灯る明かりは魔法のように優しく、その通りは大理石で出来ている。縞模様のある大理石や薄い色の大理石の宮殿がいくつもあり、黄金の円蓋と彩色された塀、青い水をたたえた池と澄み切った泉のある緑したたる庭園を擁している。そのせいか、アイラをながめると、壮麗にも黄金色に包まれて見えるという。 イラノンはアイラを探し求めて様々な土地を巡ったが、どの土地もアイラの美しさと、夢を受け入れる性質には遥か及ばなかった。 そして長い旅の果てについに、イラノンはアイラの真実を知って、その永遠の若さと夢を失って漂泊の生を終える。アイラは現実に存在する土地ではなく、イラノンの夢想の中にのみ存在する美の都だったのである。 イラノンが訪ね歩いた土地には、アイ河流域のトゥラア、イラーネック、カダテロンやステテロスなど、他の作品では『夢の国』ないしそれに類すると思われる土地の名前があるが、『イラノンの探究』では、そうした土地もすべて、アイラに比べれば現実よりの土地として語られている。 『夢の国』のセレファイスに理想を求めながら、『未知なるカダスを夢に求めて』では自分の根幹と乖離したセレファイスに倦んでいるクラネスを連想させる点もあり、完璧な理想の地と伝えられながら夢物語に過ぎなかった遥かなカトゥリアをも思い起こさせる。白い帆船が航海し、クラネスが求め、ランドルフ・カーターが歩んだ『夢の国』はしかし、人の求める究極の理想にはまだほど遠い領域なのかも知れない。
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H・P・ラヴクラフト『イラノンの探究(The Quest of Iranon)』 |
悪魔の暗礁 (Devil's Reef/特になし) |
都市 |
アメリカ合衆国マサチューセッツ州インスマス沖 |
深みのものどもに支配された港町インスマスの、1マイル半以上もの沖にある黒い岩礁。 近隣の年配者の間では、満潮時にはこの岩礁でおびただしい魔物の群れが這いまわったり、頂部の洞窟から出入りしているのが見られるという話が伝えられ、昔はインスマス以外の船はこの暗礁を大きく避けて港に入ったという。また、太平洋の島からインスマスにダゴン信仰をもたらしたオーベッド・マーシュはこの暗礁の上で儀式を行って深みのものどもを呼び寄せたと言われる。 この暗礁の付近では海底が垂直に、計り知れないほどに深く落ち込んでおり、深みのものどもの拠点である、多数の柱の林立する巨石作りのイハ=ントレイ(Y'ha-nthlei)があるものと思われる。イハ=ントレイには多くのテラスを備えた燐光を放つ宮殿、珊瑚や海中植物の庭園、凶々しい神殿などがある他、ショゴスその他、地上への進出の準備がすすめられているという。 1927年から翌年の冬にかけて行われたインスマスの検挙の際に『悪魔の暗礁』にも魚雷が打ち込まれたが、イハ=ントレイを破壊するには至らなかった。 |
H・P・ラヴクラフト『インスマスの影(The Shadow of Innsmouth)』 |
アラオザル (Alaozar/アラオザール) |
忘却の石造都市 |
都市 |
ミャンマー奥地、スン高原 |
ミャンマーの奥地、付近の住民に忌避されるスン高原(Plateau of Sung)。その中心部にある伝説の<恐怖の湖>に浮かぶ<星の島>にこの都市は位置している。 城壁と欄干に囲まれた、湖水と同じ暗緑色の石で造られた都市は、人類が誕生するはるか前に、リゲルやベテルギウスから到来した奇怪な生物(クトゥルーやハスター、ツァールとロイガーの事らしい)が棲みついていた。彼らが眠りについた後も、この都市には彼らの蒔いた種からチョ=チョ人が生まれ、洞窟を掘り下げてこの都市の地底に眠るツァールとロイガーを復活させようとしていたが、フォー=ラン博士が召還した星の戦士達によってツァールとロイガーの肉体は滅ぼされ、アラオザルは破壊された。 中国の古代の伝説でも〈恐怖の湖〉とアラオザルの事が語られているという。 |
A・W・ダーレス&M・R・スコラー『潜伏するもの(The Lair of the Star-Spawn)』 |
イブ (Ib/特になし)) |
都市 |
ムナール |
古色蒼然たる邑、灰白色の石造りの邑 |
ムナールの、通じる川を持たない静まり返った広大な湖のほとりに存在した邑。灰白色の石で造られた、湖自体と齢を同じくする邑であり、一説にはある夜、霧に包まれて湖や住民と共に月から降りてきたのだという。 この邑の住民は人間ではなく、ボクラグを崇拝する、膨れ上がった目や分厚い唇、奇妙な耳を持つ緑色の醜い生物だったが、後に人類によって築かれたサルナスの住民によって跡形もなく滅ぼされた。しかし、その千年後にはサルナスもまた災厄によって滅び、緑色の蜥蜴のはい回る湿地と化す。 虐殺を免れた住民はイブの姉妹都市ル=イブに逃れたと言われる。 |
H・P・ラヴクラフト『サルナスを襲った災厄(The Doom that Came to Sarnath)』 |
イラム (イレム、アイレム/Irem) |
都市 |
アラビアの砂漠地帯 |
円柱都市、千柱の都市 |
伝説の古代アラビアの伝説上の四種族の一つ、アードの最後の暴君シャッダードによって築かれたと言われる伝説の都市。『コーラン』の89章にはハドラマウト(イエメン東部)の地に築かれた、無数の円柱を持つ壮麗な宮殿イラムについて記されている。神話作品群中ではアラビア砂漠の中央、ハドラマント(Hadramant、ハドラマウト?)、ぺトラ(Pethri、有名なヨルダンのPetra遺跡?)など、位置は特定されていない。 人類より古い無名都市の地下部の壁には、このイラムの建設者と思われる原始人めいた人間が、無名都市の爬虫類に八つ裂きにされている様が描かれているという。また、無名都市と混同される事が多い。 アブドゥル・アルハザードはルブアルハリ砂漠で過ごしていた時にこの都市を目撃したと主張している。 また、一説によると、付近にはクトゥルー教団の本拠が置かれているという。
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H・P・ラヴクラフト『無名都市(The Nameless City)』 『銀の鍵の門を越えて(Through the Gate of Silver Key)』 H・P・ラヴクラフト&A・W・ダーレス『アルハザードのランプ(The Lamp of Alhazred)』 |
インスマス (Innsmouth/インズマス、インスマウス) |
都市 |
アメリカ合衆国ニューイングランド地方マサチューセッツ州 |
米国ニューイングランド地方マサチューセッツ州の、マヌーゼット河口に位置する港町。 1643年に建設され、独立戦争以前は造船業、19世紀初頭は海運業で栄え、それ以後は川を動力源とする軽工業の中心地となったが、米英戦争(1812〜14)以後衰退した。 1846年に伝染病で人工の半分が死亡し、貿易によって未知の民族の血が流入したといわれ、インスマスの住民はインスマス だが、この町の真実、この町が既にクトゥルーの眷族である深みのものどもの手に落ちているという事を知る者は少ない。現在では町の住民はほとんどが深みのものどもの血をひいており、余所者は何らかの手段で排除される。 1927年にはこの事実が政府の知る所となり、徹底した逮捕と破壊が行われたが、侵略者達は徐々に息を吹き返しつつある。 |
H・P・ラヴクラフト『インスマスの影(The Shadow of Innsmouth)』 『戸口にあらわれたもの(The Thing on the Doorstep)』 A・W・ダーレス『エイベル・キーンの書置(The Deposition of Abel Keane)』 『ルルイエの印(The Seal of R'lyeh)』 H・P・ラヴクラフト&A・W・ダーレス『インスマスの彫像(Innsmouth Clay)』 |
ウルタール (Ulthar/ウルサル、ウルサー) |
町 |
「夢の国」 |
スカイ河の彼方にあると言われる『夢の国』の都市。郊外にはさわやかな農場や牧草地が広がり、町中には玉石敷きの通りや古風な尖り屋根を持つ美しい町である。 町の最も高い丘の上にある〈古のもの(Elder One)〉のおぞましい神殿には、ロマールから『夢の国』に持ち込まれた『ナコト写本』の最後の一冊と『サンの謎の七書』が安置されている。また、この町に一度訪れた事のある、黒い髪の民の奇妙なキャラバンにまつわる奇怪な事件がきっかけとなって、この町では猫を殺す事が禁じられているため、町中には猫があふれ、猫の神殿も置かれている。 近隣の平野にはハテグ、ニル、魔法の森などがあり、特にニルとは、スカイ河にかかる石橋を通って行き来できる。辺り一帯ではキャベツや毛糸を産し、ダイラス=リーンからの隊商が訪れ、年に二回、流浪の民が立ち寄る。 |
H・P・ラヴクラフト『ウルタールの猫(The Cats of Ulthar)』 『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』 |
エイグロフ山脈 (Eiglophian Mountains/特になし) |
土地 |
古代ヒューペルボリア |
ヒューペルボリアの首都コモリオムから丸一日の距離に黒々とそびえる山脈。最高峰は、ヴーアミ族が棲みつき、ツァトゥグァが潜むというヴーアミタドレス山である。 コモリオム滅亡の直前に、クニガティン・ザウムに率いられたヴーアミの盗賊団がエイグロフ山脈の高くない山々の村を荒らしまわり、残虐非道を働いている。 |
C・A・スミス『アタマウスの遺言(The Testament of Athammaus)』 『七つの呪い(The Seven Geases)』 |
オーゼイユ街 (Rue d' Auseil/特になし) |
街路 |
フランス? |
H・P・ラヴクラフトの『エーリッヒ・ツァンの音楽(The Music of Elich Zann)』に登場する奇妙な通りで、フランスのどこかにあると言うが、どんな地図にも載っておらず、回想の中にのみ登場する幻想のようなおぼろげな存在となっている。 オーゼイユ街は、独特の悪臭を放つ黒々とした水の流れる川を越えたところにある。川沿いは、近くの工場の煤煙が日ざしを遮っているかのように薄暗く、両岸には窓の曇った煉瓦造りの倉庫が絶壁のように立ち並び、どっしりとした黒い石橋が掛かっている。 橋を渡ると、手すりのついた狭い玉石敷きの小路がいくつも現れ、やがて坂が始まり、なだらかだった勾配が、ほとんど崖のように急になった所がオーゼイユ街である。 狭くて急な街路はあらゆる乗り物の通行を阻み、ところどころが階段状になっていて、それを登りきると蔦のからむ壁が行く手を遮っている。舗装は様々で、石畳になっている所もあれば、玉石を敷きつめた所もあり、地面がむき出しになって灰色の草がはびこっている所もある。 家屋はどれも、驚くほど古びていて、前後左右のいずれかに危うく傾いている。時には、向かい合う二間の家屋が互いに前に傾いて、通りの上で触れそうになっている所もあり、こうした状態のせいで日ざしの大半が遮られている。また、家屋同士を通りの上で結ぶ橋もいくつかある。 この通りに住んでいるのはひどく高齢の老人ばかりで、そのせいかオーゼイユ街は、ひっそりとした特異な印象が漂っている。 オーゼイユ街を登りつめた所から三軒目に、下の坂道に建つどの建物夜も高い家屋があり、そこは中風のブランドと言う男が管理する下宿屋である。この下宿屋の六階にあたる屋根裏部屋に、年老いたドイツ人のヴィオル弾き、エーリッヒ・ツァンが住んでおり、そして姿を消した。 |
H・P・ラヴクラフト『エーリッヒ・ツァンの音楽(The Music of Elich Zann)』 |
オオナイ (Oonai/ウーナイ) |
町 |
「夢の国」? |
リュートと舞踏の都市 |
花崗岩都市テロスから、カルティアの丘陵を超えたところにある都市。リュートと舞踏の都市と呼ばれ、美と快楽に満ちた場だといわれる。 流浪の歌い手イラノンは、故郷アイラを探し求めて、テロスの夢見る少年ロムノドと共にこの街を訪れた。だがオオナイの灯は、魔法のような優しいアイラの灯とは異なって、ぎらついてけばけばしいもので、街もアイラの百分の一も美しくなかった。 アイラが地上に存在し得ない夢想の美を象徴しているのに対し、オオナイは地上の快楽と華美を象徴しているのだろう。それでもイラノンは自らの歌に賞賛と同意が得られるために、ロムノドと共にこの都に留まった。しかしやがてイラノンの歌は住民の移ろう心に飽きられ、一方イラノンと異なって歳を重ねるロムノドはこの都の快楽に浸りながら老い、一生を終える。イラノンはロムノドの墓に涙と、生前に愛していた緑の枝を捧げ、華美な衣装を脱ぎ捨てて元の粗末なローブと蔓の頭飾りだけを身につけてオオナイを去る。 |
H・P・ラヴクラフト『イラノンの探究(The Quest of Iranon)』 |