Cthulhu Monsters(か行)






ガースト

(Ghast/ガスト)

特になし

 『夢の国』の地底のガグの王国の中にあるズィンの穴に棲む肉食獣。彼らが穴の中に棲むのは、光の直射を受けると死んでしまうからだという。地底世界に追放されたガグの常食となっているが、凄まじい事に天敵への復讐の機会を狙っており、ガグが寝静まった頃に穴から出て眠っているガグに襲いかかるが、判別能力に欠けるため何にでも見境なく襲いかかり、食屍鬼からも恐れられている。共食いをする事も多いらしい。

 大きさは小さな馬ほどであり、カンガルーの様な後脚で飛び跳ねて移動する。顔は額や鼻などを欠いていながらも妙に人間じみたものであり、気持ちの良いものではないらしい。

 H・P・ラヴクラフト『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』


ガグ

(Gug/特になし)

特になし

 『夢の国』の地底に棲む巨人族。かつては地上に棲んで人間を常食としていた。蕃神とニャルラトホテップを崇拝し、魔法の森に巨大な環状列石を築いて生け贄を捧げていたが、その行為が地球の神々の怒りに触れ地底へと追放された。

 今は地底に巨大な一つの街から成る王国を築いており、街の中央には、コスの印を備える円塔がそびえている。この塔の最上階には〈コスの印〉を備えた揚げ蓋があるが、ガグが開けると呪いが降りかかるため、彼等がこの戸を開けることはない。地底に封じられてからは人間を食べる事ができないため、ガーストを常食としているが、ガーストの復讐を避けるためか、ズィンの穴の入口に歩哨を一名置いている。

 優に20フィート(約6メートル)はある巨体を持ち、黒い毛に覆われた両腕には差し渡し2フィート半(約75.5センチ)もある、鉤爪の生えた手が二つ備わっている。樽ほどもある頭には、側面から2インチ(約5センチ)も飛び出したピンク色の目、そして黄色い牙の並んだ、頭の下から上へ垂直に開いた口がある。耳も非常に鋭く、一時間限りの睡眠をむさぼっていない時には人間の足音さえ聞き取れる程だが、喋る事はできず、顔の表情によって意思を通じあう。また、長らく暗闇の中でガーストを狩っているうちに暗視が効くようになっている。

 理由は分からないが(迷信、あるいは生理的嫌悪感からかもしれない)食屍鬼を恐れている。

 H・P・ラヴクラフト『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』


ガタノトーア

(Gathanothoa/ガタノソア)

闇の神、魔物の神

 あまり語られる事はないが、『黒の書』こと『無名祭祀書』に記されている。20万年もの昔、ヨーロッパは雑種生物がいるのみで、ヒューペルボリアにてツァトゥグア崇拝が行われていた時代、ムー大陸のクナアと呼ばれる地方、もしくは王国で崇拝されていた神である。その身はクナアの中央に聳えるヤディス=ゴー山の頂上にある、幾何学的に異様な輪郭を持つ巨石建造物の地下に封印されていた。
 この神はそもそも、人類誕生以前に地球を支配していたユゴス星の生物(ミ=ゴかどうかは不明)の邪神、もしくは魔王であり、建造物は彼らが築いた要塞であるという。おそらく彼らと共に地球に飛来したものだろう(何者によって封印されたかは不明)。

 クナアにはガタノトーアを崇拝する教団があり、ガタノトーアが封印の場から出る事がないよう、毎年生け贄を捧げ続けた。というのは、ガタノトーアの姿は正視できる者がないほど恐ろしいものであり、もし目にすれば、恐怖の余り肉体が石化してしまう。更に恐ろしい事に、脳だけは石化せず、動く事の出来ない肉体の中で意識を保ったまま永遠に生き続け、ついには発狂してしまうという。このため、ガタノトーアの礼拝に携わる神官達はクナアにおいて絶大な権力を欲しいままにしたという。
 一瞥しただけで石化するまでにおぞましいという、その姿を知る由もないが、長い鼻、触腕、蛸の様な目を持ち、鱗と皺に覆われた、半ば無定型の可塑性のある巨大な体を持つという。

 長い年月の後にムー、そしてクナアは海中に沈没した。しかし、生き残った者たちが世界各地で集い、ガタノトーアの覚醒と恐怖を鎮めるために、神官たちを中心として秘密教団が築かれた。教団は生贄やおぞましい行為を行ない、奇怪な品々を多く秘蔵していた。教団は主として太平洋を中心に栄え、アトランティス、レン高原クン・ヤン、エジプト、カルデア、ペルシア、中国、メキシコ、ペルー、ヨーロッパ、アフリカの忘れ去られたセム系諸王国にも信仰は存在した。
 秘密教団のおぞましい儀式や生贄は人々から忌避され、やがて衰退し地下に潜伏したが、教団の本拠は根絶に至らず、教団は極東や太平洋の島々に残り続けた。秘密教団の教義はアレオイ(Areoi、ポリネシア社会を統治した秘教的上流組織)の秘教伝承に融けこんでいるともいう。


 宇宙からの飛来、海底に沈んだ墓所への幽閉、世界規模で(主に非西洋圏で)残存する崇拝教団の暗躍、各地の神話への融けこみ、など、ガタノトーアにはクトゥルーとの共通点が非常に多い。墓所の一時的な浮上にかかわった船が、チリのヴァルパライソとニュージーランドを行き来した船という所まで一致している。他の神話作品でガタノトーアがあまり登場することがないのも、クトゥルーと重なる点が多いために使いづらい故だろう。
『永劫より』はラヴクラフトの添削を受けた作品であり、『クトゥルーの呼び声(The Call of Cthulhu)』の後になる。ガタノトーアクトゥルーの類似が、ヒールドとラヴクラフトのどちらによるものかは不明だが、クトゥルーへのオマージュ的な要素が存在している可能性は高い。

 コリン・ウィルスンの『ロイガーの復活(the Retern to the Lloigor)』では、太古の宇宙種族ロイガー族(旧支配者のロイガーとは異なる)の首領としてガタノトーアの名が挙げられている。これも『永劫より』のガタノトーアとは異なる存在だが、ロイガー族(旧支配者のアレンジ)の首領としてガタノトーアの名を用いたのは、『クトゥルーの呼び声』において旧支配者を統括するクトゥルーの暗喩としてだろう。
 またわが国では、円谷プロダクション製作『ウルトラマンティガ』の最終三話に、敵役としてロイガー族ガタノトーアを暗喩した怪獣が登場している。そして、『ウルトラマンティガ』劇場版では超古代遺跡「ルルイエ」が浮上する。『クトゥルーの呼び声』のルルイエとはむろん異なる存在だが、『ウルトラマンティガ』最終パートとの関連も見え、「ルルイエ−クトゥルー−ガタノトーア」というイメージが、ここでも見え隠れしているとも取れそうである。

 H・P・ラヴクラフト&H・ヒールド『永劫より(Out of the Eons)』


カルネテルの黒き使者

(The Black Messenger of Karneter/特になし)

 

 ブロックの『無貌の神』で語られる、エジプト古代の伝説におけるニャルラトホテップの異称の一つ。
 太古のエジプトにおいて、ニャルラトホテップは、ハイエナの体と禿鷹の翼を持つ、スフィンクスに酷似した無貌の神として崇拝されていた。しかしやがて、邪神に背を向けた人間たちによってニャルラトホテップ崇拝は衰退し、消し去られ、ついには忘れ去られてトート、セト、ブバスティスセベクにその名残をとどめるのみとなった。
 しかしその後も、砂漠から現れたニャルラトホテップは砂漠に還っており、やがてニャルラトホテップは砂漠より再び現れてエジプトに災厄をもたらすと伝説に囁かれてきた。
 いつの日か、地上の荒廃、海底に没した都市の隆起、飢饉と悪疫、天体の異常、旧支配者の襲来などの災厄が凶兆としておこる。やがてニャルラトホテップが、漆黒の陰々たる無貌の男として、杖を片手に砂漠から現れる。その足が向くところ、人々は死に絶え、通り過ぎた後は死をのぞいて何も残らない。最後に残った真の崇拝者たちが、深淵より現れたものたちと共にニャルラトホテップを迎える。「ニャルラトホテップカルネテルの黒き使者であり、熱砂を横切り、みずからの支配地である全世界に生贄を求める」と伝えられている。

 蕃神たちの「使者」という要素と『アーカム計画(Strange Eons)』に代表されるような工作員的な役回りから、ニャルラトホテップは破滅をもたらす邪神たちを覚醒させる補助的な立場、トリックスターに描かれることが多くなっているが、カルネテルの黒き使者と呼ばれるニャルラトホテップは世界の破滅をもたらす終末の権化であり、クトゥルー神話の黙示録における主役といっていい。原点である、ラヴクラフトの『ニャルラトホテップ』における姿に非常に近く、ラヴクラフトが悪夢に見たのはカルネテルの黒き使者の歩みだったのかも知れない。

 H・P・ラヴクラフト『ニャルラトホテップ(Nyarlathotep)』
 R・ブロック『無貌の神(The Faceless God)』


ギズグス

(Ghizghuth/特になし)

特になし

 ツァトゥグアの父に当たる存在。フジウルクォイグムンズハーやトゥルー(クトゥルー)と共に、クグサクスクルスから生まれた。やがてズズトゥルゼームグニとの間にツァトゥグァが誕生する事になる。家族と共にユゴス(冥王星)へと飛来したが、その後の足取りは不明である。未だユゴスに留まっているか、もしかすると人肉嗜食と破壊の性質を持つクグサクスクルスに食われてしまったのかも知れない。

 C・A・スミスのH・バーロウ宛て書簡(1934年6月16日)


ギャア・ヨトン

(Gyaa-Yothn/ギャー・ヨスン)

特になし

 地底世界クン・ヤン住民が乗騎などの用途に用いる四足獣。奴隷の肉を餌に飼育されている。赤く輝くヨトで最初に発見されたもので、ヨトの住民によって創造されたと考えられているが、ヨトの住民そのものの子孫であるという説もある。

 全体としては白く、背中には黒いたてがみがあり、小さな角が額に生え、低い鼻と膨らんだ唇を備えた顔は人間か類人猿のとの混血を思わせるが、全体として爬虫類的な要素を持っているらしい。

 Z・ビショップ&H・P・ラヴクラフト『墳墓の怪(The Mound)』


キュベレー

(Cybele/シビリー)

特になし

 アナトリア半島(現在のトルコ)のフリギアで崇拝された女神。
 アナトリアでは、南部のチャタル・ヒュユクで、キュベレーと同じくライオンを従えた紀元前6000年の女神像が発見されており、キュベレーも古い起源をもつ女神であると推測される。ギリシャ人には母神レアーと同一視され、ローマではマグナ・マーテル(Magna Mater、大いなる母、大地母神)として崇拝された。
 キュベレーの信仰でとくに注目されるのは、この女神に仕える男性たちが去勢していたという特徴であろう。キュベレーの秘儀においては饗宴や乱交がおこなわれる一方で、男性司祭たちはキュベレーの息子にして愛人であるアッティスの伝説に倣い、儀式のなかで男性器を切除した。こうした秘儀の異様なイメージからか、ラヴクラフトの『壁の中の鼠(The Rats in the Walls)』において言及され、太古からの忌まわしい祭儀と結び付けられている。

 『壁の中の鼠』では、イギリス、アンチェスター村西部イグザム(Exham)において、ローマ統治時代に崇拝されたとされている。イグザムでは、有史以前から人肉嗜食をふくむ祭儀が連綿とおこなわれており、ローマ時代にキュベレー信仰と融合して豪奢な神殿が建立され、フリギアの神官によって名状しがたい儀式がおこなわれたという。
 キュベレー信仰が影を潜め、イングランドがサクソン人に征服され、西暦1000年ごろにキリスト教の修道院が建てられてからも、おぞましい儀式と人喰いの習慣は受け継がれた。1261年にデ・ラ・ポーア男爵家の領地となってからは、同家によって儀式が引き継がれた。
 作中では、デ・ラ・ポーア家の末裔であるアメリカ紳士が、再建した修道院に住むうちに血の呪縛にとらわれ、マグナ・マーテルの名を叫びながら知人を喰い殺すことになる。作中には、クトゥルー神話の神格についてはニャルラトホテップの名が狂気の象徴として言及されるだけだが、古き暗黒の太母神としてシュブ=ニグラスと関連付けられるかも知れない。

 また、マグナ・マーテルとしては 『レッド・フックの恐怖(The Horror at Red Hook)』においても言及される。ニューヨーク、レッド・フックの地下に設けられた儀式の場に、邪悪と恐怖の象徴のひとつとして顕現し、無頭の呆けたものども(headless moon-calves)を侍らせて登場するのである。

 H・P・ラヴクラフト『壁の中の鼠(The Rats in the Walls)』
            『レッド・フックの恐怖(The Horror at Red Hook)』


空鬼

(Dimension-Shambler/異次元の怪物、異次元に出没するもの)

特になし

 この怪物は『博物館の恐怖』に登場する。もっとも怪物そのものは登場しない。ラーン=テゴスを崇拝する蝋細工師ジョージ・ロジャーズがスティーヴン・ジョーンズを夜の博物館で襲った時、この怪物の不気味な皮をかぶっていたのである。
 その姿は類人猿とも昆虫ともつかない、巨大な黒々とした生物で、全身に殺意がみなぎっている。皮膚がしまりなく垂れ下がり、小さなどんよりした目のある皺だらけの頭部をして、上肢には大きく開く鉤爪が伸びている。触っただけでも鳥肌が立つようなもので、異界的な錆びのような臭いがするという。
 これはその皮を人間が被っている状態なので、本来の有様は不明だが、ロジャーズによると、生きている姿を見ただけで狂気に陥るようなものであるという。また、この状態のものはまだ成長途上であるらしく、その成長しきった姿は想像にすら堪えないようなものらしい。

 特有の名を持っておらず、しかも作中に登場するのは死体の皮だけなので、恐ろしい描写がなされているにも関わらず、作中における存在感はきわめて薄い。他の作品で触れられるようなこともなかったが、TRPG『クトゥルフの呼び声』において独立種族の一つとして取り上げられた。
 その内容によると、この存在は空間や次元を自在に移動することができ、点滅したかとおもうと宙に溶けるように消えてしまう。彼らはこの力を使って絶えず次元や宇宙を放浪しており、その際に品物や生物を持ち去ることもあるという。

 H・P・ラヴクラフト&H・ヒールド『博物館の恐怖(The Horror in the Museum)』


クグサクスクルス

(Cxaxukluth/特になし)

特になし

 アザトースの分裂繁殖によって産まれた、両性具有の神性。C・A・スミスによれば、ギズグスフジウルクォイグムンズハーの親であり、ツァトゥグァの祖父或いは祖母に当たる。

 遥かな世界で産まれた子孫達と共に太陽系に飛来し、ユゴス(冥王星)に居を定めた。人肉嗜食(無論、文字通り人間の肉とは考えにくい。彼等と同ランクの神性、存在に対する食欲か?)の性質を持ち、ユゴスで破壊を行った。悠久の歳月を、そこで独りで過ごしているという。

 C・A・スミスのH・バーロウ宛て書簡(1934年6月16日)


クトゥグア

(Cthugha/クスグァ)

生ける炎

 ダーレス神話で「火」の神の首領と言われる存在だが、登場する事も具体的に語られる事も少ない、謎めいた神性。フォマルハウトに幽閉されているが、フォマルハウトが地平線上にある時に次の呪文を唱える事によってこの神の力を地上に召喚できる。

Ph'nglui mglw'nafh Cthugha Fomalhaut n'gha-ghaa naf'l thagn! Ia! Cthugha!

 ニャルラトホテップと敵対し、人間の召喚に応じてナイアルラトホテップの地球上の住処であるンガイの森を、眷族である炎の生物を遣わして焼き尽くした事がある。

 A・W・ダーレス『闇に棲みつくもの(The Dweller in the Darkness)』
         『アンドルー・フェランの手記(The Manuscript of Andrew Phelan)』


クトゥルー

(Cthulhu/クトゥルフ、クスルウー、クルウルウ、ク・リトル・リトル、クートウリュウ、シュールー)

きたるべきもの、ルルイエの支配者、

「クトゥルー神話」の代表となっているこの存在だが、さほど多くの作品に登場している訳でもなければ、それほど強力な存在と言う訳でもないようだ。「ネクロノミコン」には「大いなるクトゥルー、「旧支配者」の縁者なるも、漠々として「旧支配者」を窺うに留まりたり」と書かれており、「旧支配者」に比べて一段下の存在とされている。クトゥルーが「神話」の代表となっているのはやはり「クトゥルーの呼び声(ラヴクラフト)」の存在が大きいのではないだろうか。
 クトゥルーの復活へ向けての蠢動を描いたこの作品は、眠りについた「旧支配者」がやがて復活を遂げ、人類文明を滅ぼすと言う「クトゥルー神話」の要約とも言える伝説が展開されている。作中に登場する、クトゥルー崇拝の儀式で用いられる祈りの文句

「Ph'nglui mglw'nafh Cthulhu R'lyeh wgah'nagl fhtagn

(ルルイエの館にて死せるクトゥルー夢見るままに待ちいたり)」

は最終的にはクトゥルーが復活し、地球を支配することを予言している。

 クトゥルー崇拝は、人類の、「旧支配者」への崇拝の中で最も強力であり、ポナペ島(ミクロネシアのポナペ島かは不明)を中心として太平洋、アジア、アメリカ、ニューギニア、アフリカ、グリーンランド等、全世界に信者がいる。
 人間以外には、深みのものどもと呼ばれる、無尾両生類がクトゥルーに仕えている。またアラビア半島南部のルブアルハリ砂漠にある無名都市住民クトゥルーを崇めていると言われる。

 その体は緑色の原形質からなり、蛸、もしくは槍烏賊に似た、触手に覆われた頭部、鱗に覆われる膨れ上がった胴体、巨大な鉤爪を備えた前脚と後脚、退化した様に見える細長い翼をもつ、蛸と竜と人間の戯画をいっしょくたにしたような姿をしている。とは言うものの、クトゥルーの肉体はかなり不定形の要素を持ち、全身を切り裂かれた程度ではすぐに復元してしまう程である。一説には、この姿はクラーケンをイメージしたものであり、これが本当なら、クトゥルーを目撃した船員がノルウェー人である事も偶然ではないのかもしれない(クラーケンは北欧の怪物である)。

現在、クトゥルーは南太平洋、およそ南緯47度9分、西経126度43分の海底に沈んでいる太古の石造都市ルルイエにて眠りについている。クトゥルーは死のごとき眠りに捕らわれながらも 特殊な素質を持つ人間に思念を送り、夢の中で語り掛けることができるが、海によって交信の遮られる今ではそのような事は困難となっている(この事は、クトゥルーは水によって封じられているのであってダーレスの言うような水の支配者ではない、という説の論拠となっている)。

 H・P・ラヴクラフト『クトゥルーの呼び声(The Call of Cthulhu)』
           『狂気の山脈にて(At the Mountains of Madness)』
           『インスマスを覆う影(The Shadow over Innsmouth)』
 H・P・ラヴクラフト&Z・ビショップ『墳墓の怪(The Mound)』
 A・W・ダーレス『アンドルー・フェランの手記(The Manuscript of Andrew Phelan)』
         『エイベル・キーンの書置(The Deposition of Abel Keane)』
         『クレイボーン・ボイドの遺書(The Testament of Claiborne Boyd )』
         『ネイランド・コラムの記録(The Statement of Nayland Colum)』
         『ホーヴァス・ブレインの物語(The Narrative of Horvath Blayne)』
 H・カットナー『侵入者(The Invaders)』
 R・ブロック『アーカム計画(Strange Eons)』


クトゥルーの末裔

(Star-Spawn of Cthulhu/クトゥルーの落とし子)

蛸に似た宇宙生物

名の通りクトゥルーの末裔達。「蛸のような」という形容が良く用いられ、クトゥルー、乃至その縮少版、或いは更に蛸に似た姿のようである。

 太古の昔、南太平洋に新しい大陸が隆起した頃に宇宙から飛来し、当時の地球を支配していた古のものをすべて海中に追いやった。後に彼らとの間に和睦を結び、新たな大陸を手に入れたが、やがてこの大陸は海中に沈み、彼らも皆道連れとなった。この時にこの地にルルイエを築いた可能性もあるが、そうだとすればクトゥルールルイエに封じられたのは更に後の事になる。ルルイエが海中に没したのはクトゥルーが封じられてから後の事なので、ルルイエが出来てから大陸が沈むまでの間にクトゥルールルイエに封じられたのかもしれない。

 彼らは陸棲種族であると言われているが(ラヴクラフトはクトゥルーを水の支配者と考えていた訳ではない)、まだ海底に生き残っているものもいる(陸棲種族であると言う事は古のものの残した壁画からウィリアム・ダイアー教授が読み取った事なので、正確ではない可能性もあるだろう)。生き残っているものは深みのものどもと友好関係にある。
 また、米国南西部の砂漠の洞窟に棲み、砂に棲むものに崇拝されている存在もこの一種かもしれない。宇宙にも彼らの同族が棲んでいる可能性がある。

 H・P・ラヴクラフト『狂気の山脈にて(At the Mountains of Madness)』
 A・W・ダーレス『破風の窓(The Gable Window)』
 B・ラムレイ『狂気の地底回廊(In the Vault Beneath)』


グノフ=ケー

(Gnoph-keh/ノフ=ケー)

腕の長い毛むくじゃらの人喰い

 この存在は、同一のものと思われながら各作品によって綴りが異なることが多い。しかしながら同一、あるいは類似の存在であることは間違いないと思われる。

『ポラリス』によると、かつて古代北極のロマールが大氷河に襲われ、人々がゾブナから南進した折に、長い腕の毛むくじゃらの食人種族『グノフケー族(Gnophkehs)』が立ちはだかったと言う。『未知なるカダスを夢に求めて』ではグノフケー族はオラトーエを征服してロマールの英雄全てを葬り去ったとも言われ、『墳墓の怪』においてもロマールグノフケー族と大氷河によって滅ぼされたとしている。もっとも『ポラリス(Polaris)』ではロマールを滅ぼしたのはイヌート族になっている。
『博物館の恐怖(The Horror in the Museum)』によると現在、グリーンランドの氷に棲む、鋭い角を持ち、二本脚でも四本脚でも六本脚でも立つグノフ=ケー(Gnoph-keh)の神話が伝わっているという。

 また、ダーレスの『暗黒の儀式(The Lurker of the Threshold)』ではラーン=テゴスと同一の「Gnoph-Hek」という毛に覆われた存在に言及されており、これもグノフ=ケーを指すものと思われる。
 ただしリン・カーターは『クトゥルー神話の神々(H.P.Lovecraft;The God)』の中でラーン=テゴスの化身としてのグノフ=ケーと、その眷属であるグノフケー族とに分けている。またその文中において、後者にはイヌート族との関連が感じられ、ロマール滅亡に関する情報の錯綜を整理しようとした結果だろう。
 あまり強大な神格とは言えず、変幻自在ともいえないラーン=テゴスグノフ=ケーに変化するのを妥当そすべきかは分からないが、グノフケー族ラーン=テゴスを崇めていたことは考えられるかもしれない。ラーン=テゴスが玉座の上に眠っていたヌトカ川上流の広大な石造都市遺跡はグノフケー族の都だったのかもしれない。

 H・P・ラヴクラフト『ポラリス(Polaris)』
           『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』
           『墳墓の怪(The Mound)』
 H・P・ラヴクラフト&H・ヒールド『博物館の恐怖(The Horror in the Museum)』
 A・W・ダーレス『暗黒の儀式(The Lurker of the Threshold)』


グラアキ

(Glaaki/グラーキ)

湖の住人

 イギリス、ブリチェスターの北にある幽霊湖(Ghost Lake)に棲む邪神。
 この湖は、数百年前にグラアキが隕石の内部に潜んで地球へと飛来した際の衝突で出来たものであり、グラアキは現在も湖底に埋まった隕石の内部に潜んでいる。
 隕石の表面には、真っ黒な螺旋階段と壁を備えた都市があり、トランペットのような器官の房が不快に痩せた真っ赤な体を覆っている種族が棲んでいたが、彼らは宇宙を行く間に皆、死に絶えてしまった。都市の中央には透き通った落とし戸があり、グラアキはこの落とし戸を通って現れる。

 グラアキは、湖の近くで眠っている人間の脳に催眠効果を持つ悪夢を送り込み、湖の側へと引き寄せる「夢引き」と呼ばれる行為を行う。そして犠牲者が手の届く範囲にまで呼び寄せられると、背中に密生している棘をその胸に刺し込み、体内に特殊な液体を注入する。
 傷口からはすぐに網目状の経路が全身に拡がり、犠牲者はゾンビのような状態になってグラアキの眷属と化してしまう。グラアキの思念波によってその記憶を共有すると同時に、完全に支配下に置かれて新たな犠牲者を捕らえるのを助ける。
 60年程を過ごすと、きつい光にさらされた時に「緑の崩壊」を起こすようになる。もっとも、現在は湖は人里から遠く離れている為、夢引きの使用に時間がかかる一方、犠牲者から得る生命力なしには遠隔地に夢を投影できない程にグラアキの力は弱まっていると言われている。

 グラアキの体は、最も狭い箇所でも直径約10フィート(約3m)はある楕円形であり、様々な色を持つ金属製の細く尖った棘が無数に突き出ている。楕円形のより丸みを帯びた端に、厚い唇と、黄色い目を供えた三本のねじれた眼柄がついたスポンジ状の顔がある。身体の下部の周囲には移動のために使用されるらしい白いピラミッド状の器官が多数備わっている。

 グラアキは隕石の飛来以前にも地球を訪れていると言う説もあり、グラアキの棘がエジプトの合成ミイラと共に埋葬されているのが見つかっているという説や、ハイチのゾンビは「緑の崩壊」を起こした眷属から得られた抽出物を用いて作られたという説がある。

 J・R・キャンベル『湖畔の住人(The Inhabitant of the Lake)』


〈暗きもの〉

(Dark One/暗黒のもの)

闇の魔神、暗黒界の悪霊、悪魔の使者

『ネクロノミコン』などの魔道書の中で語られる異界的な存在。精神的な存在らしく、特定の人間に夢を介して接触する。

 夢の中で〈暗きもの〉は、三次元の概念や思考パターンでは描写できない、宇宙の彼方にある窮極の闇から現れる。その姿は、人間と似ても似つかない恐ろしいものと言われ、豚の鼻、緑色の目、恐ろしい牙と鉤爪を備えた柔毛に覆われる真っ黒な怪物という姿が知られている。この姿は、悪魔アシュマダイ(アスモデウス)の中世における概念と似ていると言われ、大衆の信仰が漠然とした力に影響を及ぼして、〈暗きもの〉にこのような姿をまとわせるに至ったものだという。

 選んだ対象に、〈暗きもの〉は夢を通じて、言葉を広め、使徒となるよう命じる。宇宙の秘密など様々なことを夢の中で見せたり学ばせ、最終的に〈暗きもの〉と一体化するよう告げる。選ばれた者は徐々に眠りの時間が増え、多くのことを学ぶようになってゆく。
 来るべき日が来れば、〈暗きもの〉は対象の体のうちに顕現する。そうなると、その人間は〈暗きもの〉と一体化し、〈暗きもの〉の姿に変化してしまう。それが対象の意に沿うことなのか否か、精神も〈暗きもの〉と化すのか、などは不明だが、肉体をもって顕現した〈暗きもの〉がやがて、何らかの恐ろしい目的を果たそうとし始めることは間違いないだろう。

 魔女の集会における魔王、さらにはニャルラトホテップ伝説との関係が見られ、ニャルラトホテップの化身との説もある。

 R・ブロック『闇の魔神(The Dark Demon)』


黒の碑の神

(/特になし)

特になし

 ハンガリーの山岳地帯にある、シュトレゴイカバールなる寒村の丘の上に立つ黒い碑は、高さ約16フィート(約4.8m)、厚さ1.5フィート(45p)の八角柱であり、極めて硬質の黒い表面に、異質な記号が螺旋状に彫られている。その上に、かつて、儀式によって降臨していた神である。シュトレゴイカバールがズトゥルタンと呼ばれ、忌避される退化した野蛮な種族が住み着いていた時代、住民達は真夏の夜に生贄の儀式を行ってこの神を呼び出し、生贄を捧げていた。
 化物じみた巨大な、蛙に似た不明瞭な姿で、顔にあたる部分にある目には、情欲、強欲、醜業、邪悪、あるいは太古の不浄な忌わしい秘密の全てが映し出されていると言う。

 オスマン=トルコ帝国の軍がこの地へ侵攻して来た時、ズトゥルタンの住民は皆殺しにされたが、書家、歴史学者でもあったトルコ軍指揮官のセリム・バハドゥルの記録によると、失われた丘の上の暗く陰鬱な洞窟で、膨れ上がってのたうつ蛙に似た怪物を、ムハンマドに清められた太古の剣と、太古の呪文を用いて息の根を止めたと記されている。

 現在では原住民は残っておらず、普通の住民が住んでいるが、現在でも丘の上に立つ黒い碑は怖れられ、真夏の夜に碑に近付くものは、かつて行われた邪悪な崇拝儀式とおぞましい神の姿を目にし、狂気に陥る者も多いと言う。

 一説によると、黒の碑は巨大な尖塔が地上に突き出たものであり、その下にはさらに巨大ななにかが埋もれているという。怪物の潜んでいた洞窟はその一部である事になる。このも太古の、人にあらざるものの手になる文明の生き残りなのかも知れない。


〈黒の碑〉はシュトレゴイカバール以外の地にも同様のものが存在している。その一つはメキシコ、ユカタン半島の無人の峡谷にあるという巨石である。柱の礎の残骸のようにもとれるが、そう考えると、建築物のバランスからその高さは千フィート(300m)になってしまうという。
 その南方に当たるホンジュラスの密林にある〈蟇の神殿〉にも〈黒の碑〉との類似は認められる。神殿最奥部の石室にはミイラが安置されているが、首には、蝦蟇の形に彫られた赤い宝玉が銅鎖で掛けられている。鎖に刻まれている象形文字はシュトレゴイカバールの〈黒の碑〉に刻まれている記号とかすかながら似ている。
 また、ブリテン島西方に〈ダゴンの塚〉と呼ばれる小山、退化し果てた大地の妖蛆の巣窟があり、その中にくすんだ漆黒の〈黒の碑〉がある。両手で持てるほどの大きさだが表面に記号が彫られており、大地の妖蛆によって祭壇に祀られている。ピクト族の王ブランはこの〈黒の碑〉を奪い、大地の妖蛆との取引に用いた。
 これらの〈碑〉がすべて同じ性質の崇拝かは不明だが、それぞれが共通点を備えているのは確かである。


 TRPG『クトゥルフの呼び声』では、『無名祭祀書』にクトゥルーツァトゥグァと並んで語られている正体不明の神、ゴル=ゴロスをこのとしている。〈蟇の神殿〉に祀られていた触手と蹄をもつ神も同一のものとしている。

 R・E・ハワード『黒の碑(The Black Stone)』
        『屋根の上に(The Thing on the Roof)』
        『大地の妖蛆(Worm of the Earth)』


グロング

(Ghlongh/特になし)

特になし

 サイクラノーシュヒューペルボリアでの土星の呼び名)に棲む謎めいた種族。光に弱く、土星にて見える弱い太陽はもちろんのこと、その周りに浮かぶ光輪の光さえも恐れており、地底に棲んでいる。そのため地上に住む種族が姿を目にした事はなく、ただ地底で彼らのあげる唸り声を耳にするのみである。
 ヒューペルボリアの魔導士エイボンとモルギが、ブフレムフロイムの領域とイドヒームの領域の間にある徒歩で一日の領域を旅したとき、その声を耳にしている。

 C・A・スミス『魔道士エイボン(The Door to Saturn)』


クン・ヤンの住民

(/特になし)

特になし

 青く輝く地底世界クン・ヤンを支配する種族。意外な事に、この種族は人間、特に北米原住民(インディアン)に酷似している(人間であった可能性すら考えられる)。

 彼らは全てがツァトの都に居住し、一種の共産制と慣習によって維持される秩序になる社会を築いている。かつて征服した地下世界の異種族や家畜獣ギャア・ヨトン(Gyaa-yothn)、生ける死者ヨム・ビイ(Y'm-bbi)の奴隷を労働力としている。文明は非常に発達しており、機械文明の他にも寿命の克服、肉体の非物質化、テレパシーによる意思疎通などを行う事ができる。
 しかし余りに繁栄を極めたせいか、社会は頽廃に陥っている。また、彼らの伝説では地上は悪魔の支配する世界であり、外世界との交流、人の行き来は堅く禁じられている。

 彼らは蛸頭の神トゥールークトゥルー)と蛇神イグを熱心に崇拝している。伝説によると、彼らは太古の昔に地球によく似た星からトゥールーに連れられて地球へ来たと言われるが、真偽のほどは定かではない。また、イグの蛇の脱皮の期間(およそ一年半)を以って一年と定め、蛇の尾(ガラガラヘビ?)の鳴る音で時間を定めている。
 かつてはツァトゥグァも熱心に崇拝され、地上のロマールへも、ツァトゥグァ崇拝を伝えられたが、ンカイへ赴いた探検隊が、ツァトゥグァを崇拝する不定形の生物に関するおぞましい報告を契機に、ツァトゥグァへの信仰は衰え、現在ではシュブ=ニグラスとその子達ナグイェブ等への信仰にその座を譲っている。

 H・P・ラヴクラフト&Z・ビショップ『墳墓の怪(The Mound)』


コス

(Koth/特になし)

特になし


 ラヴクラフトの作品においては、《夢の国》の地下にあるガグの国に「コスの塔(Tower of Koth)」があり「コスの印(The sign of Koth)」を頂いている。ガグたちはかつて地上で蕃神(Other Gods)とニャルラトホテップを崇拝して生贄をささげ続けたため、大地の神々によって地下へと追放され、呪いによって「コスの塔」最上階の上げ蓋から地上へ出ることを禁じられているのである。
 何を意味するのか判然としない「コス」という名称が、神格の名として扱われているのは、ロバート・E・ハワードの『アッシュールバニパルの焔』において、クトゥルー

ヨグ=ソトースといった存在感の大きい神格とともに、忘れ去られた太古の神々として名が挙げられているためだろう。
 リン・カーターの『クトゥルー神話小辞典』では、以上の情報を総合してコスを、大地の神々の一員、夢の神とし、おなじく夢の神であるヒュプノスよりも温厚なものであるとしている。

 しかし、ハワードの作品を見てゆくと、また違った側面が描かれている。クルド人のヤズィーディー教で信仰される孔雀の天使マラク・ターウースの登場する『墓はいらない(Dig me no grave)』である。
 この作品は、イスラム教徒からは魔王と同一視されるマラク・ターウースに魂と肉体を売り渡した男の最期を描いたものだが、遺書によれば、この人物は死の都市コスの静まった恐るべき部屋(grim & silent chamber in ye dedde citie of Koth)において署名を行ったという。また、「コスの黒い城(Ye black citadels of Koth)」に達し「暗黒の帝(Ye Darke Lord)」と言葉を交わした者は、その魂と肉体を代償に、計り知れない富と智恵、250年の寿命を授かるとも書いている。この「暗黒の帝」がマラク・ターウースであり、サタン、ベルゼブブ、アポレオンといったユダヤ・キリスト教の大悪魔や、ゾロアスター教の暗黒神アーリマンとも同一の存在であるという。さらに遺書の最後は「Ya-Koth!」という文句で締めくくってあるのである。

『クトゥルー神話小辞典』では温厚な神とされているコスだが、クトゥルーヨグ=ソトースと並び称せられる存在であり、また、さまざまな宗教の魔王や暗黒神の影にある恐るべき存在かも知れないのである。

 H・P・ラヴクラフト『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』
 R・E・ハワード『アッシュールバニパルの炎(The Fire of Asshurbanipal)』
          『墓はいらない(Dig me no grave)』