Cthulhu Monsters(あ行)






アヴァロス

(Avaloth/特になし)

特になし

 クトゥルーツァトゥグァとともに、〈エルトダウン陶片〉に記される悪魔。その記述によると、かつて世界を氷雪で覆い、魔道士オム・オリス(Om Oris)に巧妙な罠と闇の魔術で撃退されたという。その時からかどうかは不明だが『アル・トールの古櫃(The coffer of Alu-Tor)』と呼ばれる、古代の象形文字を刻んだ鉛で封印された匣に封じられていた。
 アヴァロスは腐臭のような悪臭と冷気を放ち、冷たく柔らかい触手で人間を押し潰して血を吸い尽くす。ただ、熱には弱い。

 R・F・シーライト『暗恨(The Sealed Casket)』
          『知識を守るもの(The Keeper of the Knowledge)』


アザトース

(Azathoth/アザトホース、アザトホート)

果てしなき魔王、沸騰する核の混沌、外から来るもの
外なる神(異形の神々) 旧支配者/なし(四大元素を超越しているのだろう)

『外なる神』の総帥であり、宇宙が始まった時から存在している。または、存在するもの全てはアザトースの思考により創造されたとも言う。
 創造神であるにも関わらず、アザトースは一切の知性を持たない盲目白痴の神である。ただただ痴愚のままに、宇宙を思いのままに弄んでいるのである。『旧神』によって知性を奪われたという説もあるが、その性質から考えるに元から知性を持っていないと考える方が自然に思われる。
 アストラル界に入った者には彼の巣食う混沌の中心は極めて微かな菫色の輝きと色の着いた揺らめく光として見えるらしい。アザトースを覆い隠す帳は薄いが、その姿を少しでも目にした者には完全な破滅が訪れるという。

 余りに強大で想像を絶する存在であるためか、強大かつ有名な神格である割にはアザトースの信者は少ない。知られている崇拝者は、ゴーツウッドの森に棲むシャガイの昆虫族であり、彼らはアザトースを招き入れる多次元の門』と幾本ものしなやかな脚に支えられた二枚貝に似た神像(本当にこのような具体的な姿だとは思えないが)でアザトースを崇拝している。

 H・P・ラヴクラフト『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』
           『魔女の家の夢(The Dreams in the Witch-House)』
           『闇をさまようもの(The Haunter of the Dark)』
 H・カットナー『ヒュドラ(Hydra)』
 W・R・キャンベル『妖虫(The Insects from Shaggai)』


アドゥムブラリ

(Adumbrali/特に無し)

生ける影、影の生物
***** *****

 時間と空間の法則を越える異界の種族。『イステの歌』によると、他の世界に住む生物に恐るべき罠と様々な幻影を仕掛け、自分達の領域に引き込む事を好むと言う。

 彼等はその世界の住民に似た、信じ難い力を持つ探求者を創りあげて送り込み、獲物を催眠術にかかるよう仕向ける。ごく僅かな達人によってのみ、完璧すぎる動きや姿、異常な振る舞い、異質なオーラと力から見分けられる。アドゥムブラリは催眠にかかった犠牲者に触手を伸ばし、触れる事によって自分達の世界に引きずり込むのである。
 犠牲者の死体は元の世界に残されるが、死体からは少しの傷も無いにも関わらず体液が一滴残らず失われている。さらに目は彼方を見据えるように見開かれ、輝き蠢く斑紋が全身を覆っているのである。尤も、これは地球の、それも人間を対象にした場合なので、他の世界の他の存在を相手にする時には事情が異なってくるのかも知れない。

 催眠に掛けられた者はアドゥムブラリの本来の姿を目にする事になる。それは漆黒の塊が集まったような巨大なもので、中央の塊からは信じられないほど長い触手が伸びた、生ける影のようなものだという。

 R・W・ロウンデズ『深淵の恐怖(The Abyss)』


アトラク=ナクア

(Atlach=Nacha/アトラク=ナチャ)

蜘蛛の神
旧支配者 旧支配者/不明

 古代ヒューペルボリアにあったヴーアミタドレス山の地下に棲む神の一人であり、人間がうずくまった程の大きさの漆黒の体に、幾つもの蜘蛛のような足と、猜疑と好奇心の入り混じった表情を浮かべる、毛に縁取られた狡猾そうな目をもつ顔がついている。

 ヴーアミタドレス山の地底に広がる底なしの深淵全体にロープほどの太さを持つ灰色の糸から成る巨大な巣を張り巡らしており、その上を高速で走り回っては深淵のあちらこちらで次々と新たな巣を創り出している。
 この巣は何らかの橋渡しの役目を果たす物であるらしく、アトラク=ナクアは永遠にこの仕事を続けなければならないのだと言う。何を渡すための物なのか、なぜこの仕事を続けなければならないのかは不明だが、この地底の底に棲むアブホースが分裂繁殖によって産み出した生物がこの巣を渡って深淵を渡っており、アトラク=ナクアはこれらの怪物が地上にさまよい出るのを手助けしているのかも知れない。

 C・A・スミス『七つの呪い(The Seven Geases)』


アフトゥ

(Ahtu/アトゥ)

這いうねる混沌
化身 旧支配者/地

 ニャルラトホテップの化身のひとつで、この名はコンゴ川上流のバコンゴ族による呼び名である。

 生物でも物体でもなく、様々なものに働きかけてそれを己が肉体と化し、最終的には地球そのものと同化、さらに他の天体へと広がってゆくという存在。あらゆるものを己が内に取り込んで一体化・巨大化し、宇宙の全てを呑みこんでゆく訳で、ニャルラトホテップの特性である『混沌』を、非常に明瞭に体現した存在といえるだろう。

 ゆえに、明瞭な「姿」や「肉体」は持たないのかも知れないが、大地より形成した、中心の首状の部分を取り巻くように、赤味を帯びた黄金色のしなやかな巻きひげが生えた、太さ50フィート(約150メートル)もあるきらきらと輝く円柱という姿が目撃されている。
 また、同化した大地が盛り上がって触手を形成する、などの場合もある。

 ベルギー領コンゴ(現コンゴ共和国)の密林の奥地で、圧制や暴力に痛めつけられ、肉体の一部を奪われた人間たちによって、救世主として崇拝されていた。肉体の一部を失った者に対し、失った肉体を通じて強く呼びかけ、崇拝に仕向けることができるようである。

 D・ドレイク『蠢く密林(Than Curse The Darkness)』


アブホース

(Abhoth/特に無し)

宇宙の不浄全ての母にして父
外なる神(異形の神々) 旧支配者/不明

 古の神々と齢を等しくするアブホースヒューペルボリアヴーアミタドレス山の地底にある、「粘着質の湾」に潜んでいる。そこは暑く、蒸気と悪臭漂う、薄闇に包まれた汚物まみれの泥に縁取られた水溜まりであり、アブホースの肉体によって一杯に満たされている。

 アブホースの姿は震えながら絶えず膨張する、灰色がかった巨大な塊であって、そこから分裂繁殖によって、奇怪な化け物じみた生物を産み出し続けている。産み出され、水溜まりに落ちた生物のうち、岸に泳ぎつけなかったものはアブホースの体の各所に開く口に呑み込まれるが、逃れたものは外に這い出していき、母体から離れるにつれて徐々に大きくなってゆくと言う。
 これらの落し子とは別に、明確な用途の為の器官を創り出す事もできるが、そういった器官も用を果たすと独立した生命を得て、何処へとも無く去ってゆく。
 繁殖能力の他にはテレパシーらしきものを使う事が出来、多少の齟齬はあるらしいものの、人間と意志の疎通を行う事も可能だ。

 性質と言い、形状と言い、ウボ=サスラに似ているが、ウボ=サスラが地球上生物の原形を産み出したと言うのに対し、アブホースは人類とは全く縁もゆかりもない生命体であるらしく、人類や地上に対する知識や興味は全く無いらしい。
 アブホースの棲むヴーアミタドレス山の地下には、ツァトゥグァアトラク=ナクアといった神々が棲んでいるが、アブホースはこうした邪神の縁者、あるいは更に下等な存在の祖なのかも知れない。

 C・A・スミス『七つの呪い(The Seven Geases)』


アルケタイプ

(Archetype/特に無し)

特になし
***** *****

 ヒューペルボリアヴーアミタドレス山の地下世界を放浪したラリバール・ヴーズ蛇人間の呪いによってその次に遣わされた存在。

 ヴーアミタドレス山地下の住人の例に漏れずその一区画をなす洞窟に棲んでいる。赤道付近の沼地のような湿っぽい蒸気に満ちた洞窟は、太陽が創造される前のような原初の輝きが全てを包み、全てに浸透している。
 そこには原初の世界の岩、動物、植物のような形が満ちているが、どの形もはっきりとしないおぼろげなもので、その構成組織も不透明ながら希薄なものであり、霊体に近い。動物相は中生代に近いらしく、ラリバール・ヴーズは霧状の肉体を持つ肉食恐竜のような存在たちに幾度も飲み込まれたが、その消化器官は簡単に破れ、それでいて怪物になんら傷を与えなかった。
 ラリバール・ヴーズはこの領域を彷徨ったのち、どことなく人間に似た存在にまみえた。それは巨大で、ほとんど球のような形状で浮遊するように移動する二体の存在だった。その顔つきは未完成なほどおぼろげで、原始的な母音で言葉を話す。彼らは「人類の始祖」と名乗り、ラリバール・ヴーズに対して「真の原型より言語道断にも邪道におちいった、かくも粗雑な複製」と、嫌悪と敵意を表した。そして彼にさらなる呪いをかけ、アブホースの元へと追いやるのである。

「アルケタイプ(Archetype)」はおそらく、ギリシャ語の「arche(起源、最初)」と英語の「type(型)」から成る名称であろうと思われる。この洞窟内の存在はすべてが「アルケタイプ」であり、万物の原初の形を留めているものと考えられる。この洞窟は地底にありながら、霊界のような場に近い領域なのかもしれない。
 彼らの領域の先に「宇宙全ての不浄の父にして母」として怪物を産みだし続けるアブホースが潜んでいるのも何かの縁だろうか。

 ちなみにスミスは、1934年9月10日にバーロウに宛てた書簡の中で、ヒューペルボリアの女神イホウンデーの親、ズィヒュメなる存在について触れており、これを「両性具有の動物アルケタイプ(androgyne animal Archetype )」と表現している。

 C・A・スミス『七つの呪い(The Seven Geases)』


暗黒の男

(Black Man/特になし)

暗黒の男
化身 旧支配者/地

 ラヴクラフトの『魔女の家の夢』で、魔女集会が開かれるというワルプルギスの夜(聖ワルプルギス祭の前夜で魔女の饗宴の夜)が近づくアーカムにて暗躍した怪人物。真黒な肌をしているが黒色人種の特徴をまったく持たない長身痩躯の男で、髪や髭は一本もない。厚手に織られた、黒く、これといった形のないローブだけを身につけている。
 魔女キザイアと使い魔ブラウン=ジェンキンと共に大学生ウォルター・ギルマンの夢に現れ、底知れない深淵へと招こうとした。

 暗黒の男とは、魔女が集って悪魔を崇める魔宴(サバト)の伝説において、饗宴を主催する悪魔の王(レオナルド、バフォメットなどと呼ばれる)の化身とされる存在である。だが、ニャルラトホテップの『ネクロノミコン』における性質と酷似しているらしく、その顕現と考えて間違いないようである。『ニャルラトホテップ』における公演者、『夢の国』カダスの城に顕現する大いなるものどもの庇護者、「カルネテルの黒き使者」、『アーカム計画』に登場するナイ神父と同様の、人型の顕現であるらしい。
 顕現する形によってさまざまな性質を持つニャルラトホテップだが、ここでは禁断の深淵を乗り越えようと試みる者に、秘められた知識や恐るべき力を現したり伝えたりする存在という面が強いようだ。キザイアも彼から禁断の知恵を学んで魔女となり、ギルマンは新たに引き込まれようとしていたのだろう。

 なお、注目すべきことに、ギルマンの夢の中において、キザイアブラウン=ジェンキンとともに、古のものとしか思えない姿の怪物たちが姿を表しているのである。彼らが暗黒の男と関わりがあるのかは不明だが、この世のものならぬ知恵と力を与える暗黒の男と、かつて絶大な知恵と力を誇った文明の担い手である古のものとの組み合わせは興味深い。

 H・P・ラヴクラフト『ニャルラトホテップ(Nyarlathotep)』
           『魔女の家の夢(The Dreams in the Witch-House)』


イースの大いなる種族

(Great Race of Yith/イスの偉大なる種族)

特になし
独立種族 *****

 単に『大いなる種族』とも呼ばれる。こう呼ばれるのは、彼らが唯一、時間の秘密を突き止めた種族だからである。

 この種族の最大の特徴は、その正体が実体を持たない精神生命体だということであろう。彼等は精神を他の生物に投影することによって、その生物と肉体を交換することができる。投影できる範囲は広範に及び、銀河を越えての投影はおろか、時空を超えて何億年もの未来や過去へ投影することもできる。
 通常は、一つの種族全体の肉体を乗っ取って生活しているが、種族全体に避けられない破滅が降りかかると、種族全体の精神を他の場所や時代に棲む知的種族の精神と交換し、その肉体へと移ることによって破滅を逃れる。従って、彼等に定まった肉体というものはないのだが、ここでは彼等が初めて登場する作品、ラヴクラフトの『時間からの影』に取り上げられている、十億年前から一万年前までの地球に生活していた時に、彼等が乗っ取って使っていた肉体について説明する。

 その肉体とは鱗に覆われた、高さ10フィート(約3メートル)、底部の直径10フィート程の巨大な虹色の円錐体である。
 底部は這うのに使う、弾力性のある灰白色物質で縁取られている。頂部からは伸縮自在の円筒状器官が四本延びており、二本は擦りあわせて会話にも使う鉤爪(あるいは鋏)、一本は食事などに使う漏斗型の赤い四つの付属器官、残りの一つには頭部がそれぞれついている。
 頭部は黄味がかったいびつな球体であり、中央の円周上には大きな暗い眼が三つ並び、上部からは音を聞くために使う、花に似た付属器官を備える灰白色の細い四本の肉茎、下部からは細かい作業に使う緑がかった八本の触手が垂れ下がっている。また、この鉤を擦り合わせて会話を行う。
 半ば植物的な生命体であり、基部で房をなし、水中のみで成長できる種子、或いは胞子で繁殖するが、平均四、五千年という長い寿命のため、子は僅かしか育てない。

 彼等は異なる地や時代の知識を得るのに熱心であり、調査のために他の土地や時代に精神を投影する。投影された精神はその地のその時代において最も高度な種の、最も優れた個体に入り込み、その地の情報を収集する。また、『大いなる種族』の知識を信奉する集団や宗派が、知識と引き換えにその活動をを幇助することもある。
 一方、犠牲者の精神は、『大いなる種族』の尋問や要望によって、自分のいた場所の情報を彼等に与える事になる。『大いなる種族』の巨大な都市の地下にある堅牢な中央記録保管所には、こうして集められた膨大な記録が眠っている。
 調査が終わると再び精神を転移して元に戻す。その際に犠牲者の、『大いなる種族』の元での記憶は抹消されるのだが、記憶が断片的に残ったり、夢に現れたりすることがある。

 彼等は十億年程前に『イース』と呼ばれる超銀河世界から飛来した。当時の地球はやはり宇宙から飛来した盲目のものに支配されていたが、『大いなる種族』は彼等を打ち破り(『盲目のもの』の精神は異質なもので精神転移が出来ないので、次善の策として円錐状の肉体を選んだのかもしれない)、棲みつきはじめていた地底へと彼等を追いやり、都市を乗っ取った。しかし、その後も『盲目のもの』の存在は脅威であったらしく、彼等の反撃を受けた事もあって、最終的には地底への入口はほぼ完全に封印された。
 しかし結局は『盲目のもの』の復讐によって『大いなる種族』は人類の次に栄えることになる強壮な甲虫類の肉体に転移せざるを得なくなる。
 その後、地球の終焉が近づくと『大いなる種族』は水星の球根上植物の肉体に宿ることになるという。

 H・P・ラヴクラフト『時間からの影(The Shadow out of the Time)』
 C・L・ムーア、A・メリット、H・P・ラヴクラフト、R・E・ハワード&F・B・ロング
                 『彼方からの挑戦(The Challange from Beyond)』
 A・W・ダーレス『異次元の影(The Shadow out of the Space)』
          『ポーの末裔(The Darkness Brotherhood)』


イェーキュブの住民

(Inhabitants of Yekub/イェキューブの住人)

特になし
独立種族 *****

 他銀河の惑星イェーキュブを母星とする知的種族。薄灰色の巨大な芋虫か百足のような姿で、胴回りは人間と同程度、身長は二倍以上ある。繊毛に縁取られた、中央に紫の孔が空いた円盤状の頭部、背筋に沿って生えた紫色のとさか、灰色の薄幕で出来た扇形の尾を持ち、首の周りにあるしなやかな赤い針の輪をねじらせて規則正しいカチカチという音を立てる。後部の脚で滑り、体の前半分を直立させ、二対以上の脚を手として用いている。

 彼らはその偉大な知識と技術を以って、自分達の銀河系全てを征服、独占したが、他の銀河系へ到達する事は出来なかった。代わりに、催眠効果を持つ楔状の記号を表面に刻んだ円盤を内部に埋め込んだ、一辺4インチ(約10センチ)の水晶の立方体を造った。
 この装置は宇宙空間に耐えうる球状の外皮に包まれて、銀河の彼方へと発射される。いずれかの惑星に到達すると、大気圏で外皮が焼き切られて立方体が露出する。惑星に知的生物が存在し、装置を発見した場合、見たものの注意を釘付けにしてしまう機能が働き始める。
 相手の関心と光が一緒になった時、装置が働いて犠牲者の精神をイェーキュブ星に送り、受信用の機会に収容する。次に、イェーキュブ人の調査官と犠牲者の精神が交換され、さらにもう一度の転移により、調査官の精神は犠牲者の肉体に入り込む。こうしてイェーキュブ人と異星の住民の肉体交換が完了するのである。
 異星の探索が終わると調査官は立方体を使って母星へと帰還する。犠牲者の精神はその時に故郷に帰してもらえる事もあるが、宇宙旅行が可能な種族が発見された場合、イェーキュブ人は立方体を使って大量にその種族の精神を捕らえて抹殺し、全滅させてしまう。また、同様にして異星を征服する場合もある。

〈エルトダウン陶片〉の記述によると、この装置の数少ない成功例に、一億五千年前に地球に到達した例があるという。しかし、当時の地球を支配していたのは、『イースの大いなる種族』であった。卓越した精神転移者である彼らは、立方体が精神転移による侵略の一歩だと早々に気づき、イェーキュブ人の精神を抹殺して、装置を封印したのである。
 以来イェーキュブ人は地球の全生命を敵視するようになった。しかし、イェーキュブ人が人間の肉体をのっとった場合、制御する事はできない。人間の野獣の本能が強力すぎるために、短期間の間に自滅してしまうのである。

 イェーキュブ人は透明な象牙の球を思わせる、光り輝く球体をイェーキュブの最高神として崇拝している。球体は意志と精神的な力を備えており、普段は階段状の巨大な祭壇の最上部の円錐から立ち上る青い霞をまとって宙に浮かんでいる。

 C・L・ムーア、A・メリット、H・P・ラヴクラフト、R・E・ハワード&F・B・ロング
                 『彼方からの挑戦(The Challange from Beyond)』


イェブ

(Yeb/特になし)

特に無し
***** 旧支配者/地

 古代にムー大陸のクナアで、ナグと共にシュブ=ニグラスの子とされ(ラヴクラフトの作成した系図によると、ヨグ・ソトースシュブ=ニグラスの子であり、ツァトゥグァの親であるという)、彼等やイグと共に崇拝された神。
 現在では、地底世界クン・ヤンの住民によって、クトゥルーナグと共に崇拝されている。

 H・P・ラヴクラフト&Z・B・ビショップ『墳墓の怪(The Mound)』


イオド

(Iod/イォド)

狩りたてるもの 輝ける狩人 輝く追跡者
不明 不明

 イオドは古の神々が地球を旅の中継地点にしていた頃に地球に飛来した最古の神の 一員であり、ムー大陸でクトゥルーヴォルヴァドスと共に崇拝され、ギリシャ人にはトロポニオス、エトルリア人にはウェーヨウィスと呼ばれ、インドのラージギールでは輪廻転生を断ち切るものとして恐れられていた。
 この存在は別次元を住処とし、次元を移動して魂を狩りたてるという。狙われた魂 は逃げることは出来ても完全に逃げ延びる力はないという。しかし、然るべき予防措 置をとれば、この神を安全に召還し、仕えさせることが出来る。

 イオドがどのような姿で現れるかは誰にもわからず、同じ姿で現れることはないと言われるが、カットナーの『狩り立てるもの』では、異様な鉱物や結晶体、鱗に覆われ強烈な光を放つ半透明の肉体、全身を覆う脈動する粘着質の光、貪欲そうな吸引音をたてる植物状の附 属器官、薄い粘液を滴らせる膜状の肉体、冷たい光を放つ巨大な複眼、ロープ状の触手など、調和し得ない様々な要素を備えている――という姿を現している。
 必要な備えなくイオドの最悪 の姿を目にした者は、魂を吸い取られるが、その結果は肉体は活動力を失う一方で、意識は永遠に生き続けるというものである(これは思考インパルスが神経の亀裂を渡るのを遮られる強硬症と同じ状態だとも言われる)。魂だけの状態で魂を狩られるとどうなるのかは知られていないが、復活や転生の道が完全に断たれるのは間違いないだろう。

 尚、イオド召喚の呪文については、次のような断片が明らかになっている。


ウェニ・ディアボレ、ディスカルケア・メ……レデケ、ミセル……

バガビ・ラカ・バカベ__ラマク・カビ・アカバベ__カレリョス……

 H・カットナー『狩り立てるもの(The Hunt)』
        『侵入者(The Invaders)』
 R・ブロック『尖塔の影(The Shadow from the Steeple)』


イグ

(Yig/ヰイグ)

蛇の神
旧支配者 旧支配者/不明

 父なるイグは『黒の書』、すなわち『無名祭祀書』によると劫初の時代にムー大陸でクトゥルーイオドヴォルヴァドス等と共に崇拝された。
 中央平原の原住民の間でも語り伝えられており、その伝説が南方へ伝播してアステカの翼ある蛇ケツァルコアトルや、マヤの同様の神ククルカンとなったという。また、蛇人間を創り出したのはこの神であるとも言われる。

 イグは蛇達の守護神であり、イグを侮辱したり、自分の子である蛇に危害を加える者は容赦なく苦しめ、最後には蛇に変えてしまうという。しかも執念深く、忘れると言う事がないともいう。その一方で、自分や蛇を敬う者に対しては温厚な態度をとる(日本人に比較的馴染みのある、蛇神そのものと言えるかも知れない)。また、蛇が飢える秋になると異様に狂暴化するので、適切な儀式で退ける必要があるという。
 ちなみに、ルートヴィヒ・プリンの「妖蛆の秘密」で言及され、暗きハン、忘却の神バイアティスと共に、予言の神とされている。

 姿は、遠くから見た限りでは人間と同じように見えるというので、人間の姿、あるいは蛇の特徴を備えた人間として現れるものと思われる。ラヴクラフトとゼリア・ビショップの合作『イグの呪い(The Curse of Yig)』の内容から、人間との間に子を設けることが出来るとも言われている。これが事実かどうかは不明だが、『イグの呪い』の筋書きから判断する限りでは、この場合は単に強力な意識の作用ではないだろうか。

 H・P・ラヴクラフト『闇に囁くもの(The Wisperer in Darkness)』
 H・P・ラヴクラフト&Z・B・ビショップ『イグの呪い(The Curse of Yig)』
                    『墳墓の怪(The Mound)』
 H・ヒールド&H・P・ラヴクラフト『永劫より(Out of the Eons)』


イクナグンニスススズ

(Ycnagnnisssz/特になし)

特になし
***** *****

   スミスがバーロウに宛てた書簡に付された系図に掲載されている存在。暗黒星ゾスから来た分裂生殖する存在だという。スミスによると、イクナグンニスススズは女性格をもったズストゥルゼームグニを生み出し、「彼女」はククサグサクルスの子ギズグスとの間にツァトゥグアを産み出した。
 リン・カーターの神話作品ではゾスのものたち(Xothians)というゾスにて生まれた存在――クトゥルーの子ら、ゾス=オムモグ、イソグサ(Ythogtha)、ガタノトーア末裔――が語られている。スミスはイクナグンニスススズクトゥルーの関係については何も触れてはいないが、クトゥルーをも産み出しているのかも知れない。
 異形の存在を分裂によって産み出すという点で、同じくスミスの創造したアブホースにも似ているが、産みだしているものの規模があまりに差がある。あるいは、アブホースからクトゥルーに匹敵するような存在が産まれ得るのかも知れない。

 C・A・スミスのR・H・バーロウに宛て書簡


イタカ

(Ithaqua/イタクァ、イサクァ、イトハカ)

風に乗りて歩むもの、歩む死、風の神、大いなる白き沈黙の神、死と共に渡り行くもの

地の上高く渡り行くもの、天を制するもの

旧支配者 旧支配者/風

 ハスターの眷属であり、大気を象徴するものとされる。
 この存在の原典はカナダ原住民の伝説に登場する、ウェンディゴと呼ばれる魔神である。ウェンディゴは身長五メートルもの巨体と骸骨のような持っており、吹雪の夜に風に乗って目にも留まらぬ速さで現れ、人間をさらって行くと言われた。クトゥルー神話ではウェンディゴはイタカの化身、あるいは従兄弟、眷属であるとされる。

 人間似た輪郭を持つ巨体、人間を戯画化したような顔、鮮紅色に燃え上がる二つの目を持つその姿が夜空に舞う様は、地上から見上げると、頂上に二つの星が燃えるように輝いた、人間の輪郭に似た巨大な雲のように見える。
 しかし、イタカの姿を目にしてしまったものは長生きできない。遠からずイタカによって空に巻き上げられ、連れ去られてしまう事になるのだ。イタカは自分の姿を目にしたものの他、獲物、捧げられた生け贄、逆らった崇拝者等をこのようにして遥かな空の高みへと連れ去ってしまう。犠牲者が連れ去られた後には巨大な水掻きの付いた足跡が残されている。

 連れ去られた人間は(恐らくはイタカの力によって)死ぬ事なく数カ月に渡って世界の空を引き回され、生きたまま様々な地方や秘境の様を目にすることになる。犠牲者はやがて地上へ戻されるが、それ以前に死ぬか、戻される際の衝撃で死ぬ事もあり、生きて地上へ戻ったとしても高空の冷気に馴染んでしまっており、暖かい地上では長くは生きられないのだ。この旅の経過の詳細は不明だが、地上で発見された犠牲者が、未知の文字や情景の描かれた銘板や奇怪な石像等の謎めいた品を身に付けている事がある。

 イタカはカナダの奥地等で(時にはウェンディゴの名で)一部の人間に崇拝されている他、イタカが生まれたともいわれるレン高原でも崇拝されているという。

 A・W・ダーレス『風に乗りて歩むもの(The Thing Walked on the Wind)』
         『戸口の彼方へ(The Thing Walked on the Wind)』
         『イタカ(Ithaqua)』


イドヒーム

(Ydheem/特になし)

特になし
独立種族 *****

 サイクラノーシュ(土星)に棲む種族の一。ブフレムフロイムの居住地から砂漠地帯、鉱物性サボテン地帯、森林地帯、山岳地帯を越えた地域に住んでいる。かつては山岳地帯にほど近い町に住んでいたが、地球から訪れた魔道士エイボンフジウルクォイグムンズハーの託宣を伝えた事により、現在では山から遠く離れた、キノコの林のある平野のグフロムフの町に住んでいる。
 彼等はフジウルクォイグムンズハーや、ツァトゥグアを含む類縁の神々を深く信仰しており、神々の用いた言葉を未だに伝えている。尤もその信仰は寛容で、宗教的な争いは起こっていない。

  C・A・スミス『魔道士エイボン(The Door to Saturn)』


古のもの

(Old one/〈旧支配者〉)

特になし
独立種族 *****

 恐らくは最初に地球を支配した種族である。この種族はまだ地球に生物が存在していなかった頃に、特殊な手段とその翼を用いて飛来した。
 彼等は当初は海底、次にはまだ温暖だった南極大陸に棲みつき、食料や家畜にするために様々な生物を創り出した。『ネクロノミコン』によると、それが人類を含めた地球の生物の発祥である。また、この時には既に奴隷生物ショゴスを創り出している。
 彼等は地球に飛来した様々な種族 ―― クトゥルーの末裔イースの大いなる種族ユゴスからのもの ―― や反抗的な性質を増したショゴスと争いを繰り広げ、例外はあるにせよ概ね南極及びその近海を確保し、各地に壮大な都市を築いていた。その最も重要なものが南極の狂気の山脈(これがレン高原であるという説もある)に今も凍り付いた廃虚として残っている。
 しかし、やがて南極の寒冷化が始まり、地上での生活が困難になったため、彼等は地底の洞窟や海底に移り住んだ。地底に移り住んだもの達は、ショゴスの再度の反乱によって滅ぼされたが、海底には今も彼等が生き残っている可能性がある。またニャルラトホテップと共に人間の夢に現れた事もあり、異次元、あるいは他の天体にも存在するのかもしれない。

 彼等の身長は8フィート(約240cm)程。縦に隆起した部分を五箇所持つ黒っぽい灰色の胴の上には、角の先端に紅い目のついた、黄色がかったヒトデ型の頭部がついている。また、胴の底部にも、やはりヒトデ型の器官が備わり、五つの先端のそれぞれから五つの触手が伸びていて、その先に鰭足がついている。この器官で陸上を這ったり、水中を泳いだりする。胴の隆起部の頂点にはそれぞれ五本ずつ触腕が備わり、それぞれの先端が更に五本に分かれている。また、胴の五つの(ひだ)には、大きな翼が一つずつ折り畳まれており、飛ぶ事もできる。こうした組織は皆、信じられない程の強靭性を持ちながら、極めて柔軟性に富んでいる。
 発声器官は特異なもので、広範囲に響く『テケリ・リ! テケリ・リ!(Tekeli-li!)』と、笛のような声を出す。この声はラヴクラフトの崇拝したE・A・ポオの『ナンタケット島生まれのアーサー・ゴードン・ピムの物語』の中で、南極近海にある島の蛮族の発した悲鳴であり、南極の(もや)の中で主人公の前に現われた白い鳥の鳴声でもある)。

 H・P・ラヴクラフト『狂気の山脈にて(At the Mountains of Madness)』
           『魔女の家の夢(The Dreams in the Witch-House)』
           『時間からの影(The Shadow out of the Time)』
 B・ラムレイ『狂気の地底回廊(In the Vault Beneath)』


イヌート(不明/特になし)

黄色の悪鬼
独立種族 *****

 超古代に東漸して、北極圏を治めていたロマールを滅ぼした、ずんぐりした体躯と黄色い肌を持つ種族。イヌイット(エスキモー)の祖先であると思われる。もっとも、ラヴクラフトの『ポラリス』における表記には、イヌート及びロマールの存在は夢の中のみのものであると思われる節があるので、別のものかも知れない。
 ただし、ラヴクラフトの『未知なるカダスを夢に求めて』『墳墓の怪(The Mound)』ではグノフケー族ロマールを滅ぼしたという記述があり、情報の錯綜が見られる。

 H・P・ラヴクラフト『ポラリス(Polaris)』
           『時間からの影(The Shadow out of the Time)』


イブの住民

(不明/イブの怪物)

深淵にて声なき声で歌うもの
独立種族 *****

 ムナールの広大な湖の畔に存在した禁断のイブに住んでいた生物であり、爬虫類であると思われる。伝説に依れば、イブの邑や湖そのものと共に月から降りてきたという。

 湖と同じ緑色の体色、膨れ上がった目、分厚く垂れ下がった唇、奇妙な耳を持ち、声を発する事はないと言われる。もっとも、「声なき声で歌う」という記述があるので、人間には聞き取れないある種の声を持つのかも知れない。
 彼らは水の大蜥蜴神ボクラグを崇拝し、月が半月から満月に向かうまでの間、ボクラグを象った、緑色の石造を前にして恐ろしい舞踏に興じる。
 肉体的には脆弱であるらしく、サルナスの邑を築いた髪の黒い羊飼いの民によって滅ぼされたが、サルナスの支配者達は一万年の後に、ボクラグの呪いによって、イブの住民へと変えられた。

 しかし、ブライアン・ラムレイはこのマイナーな種族を取り上げ、『大いなる帰還(The Sister City)』の中で、虐殺を免れた住民がヅィンメリア(ハワードのコナン・シリーズのキンメリア。現在ではイングランド北東のヨークシャー地方)の地底の姉妹都市ル=イブに移り住み、現在まで生き長らえているとした。

 イブに単独で棲んでいた頃からは体質が変化しているのか、ル=イブ住民は、嬰児の頃は人間にそっくりとされており、また、ル=イブの環境が幼児や子供の生活に適さないため、嬰児は人間の土地に置き去りにして育てさせるという、かなり外界や人間に依存した生態を持っている。
 成長した子は姿が変化して人間界の環境に適応できなくなる21歳ぐらいになると、ル=イブに戻るが、人間界での様々な困難や、身体の変異による発狂などの要因から、無事に故郷に戻れる者は、心身ともに健全なごく少数に留まる。また、自分の出自を誤って深みのものどもに加わり、ダゴンクトゥルーに仕える者も存在する。ル=イブに帰り着き、さらに歳を経ると再び外界の環境に耐えられるようになる。
 また、彼らの中にはボクラグの血を引く者もおり、一般の住民から敬われているという。

 H・P・ラヴクラフト『サルナスを襲った災厄(The Doom that Came to Sarnath)』
 B・ラムレイ『大いなる帰還(The Sister City)』


イホウンデー

(Yhoundeh/特になし)

ヘラジカの女神、大角の女神
***** 旧神

 古代ヒューペルボリアで崇拝された女神。神官達は古代ヒューペルボリアで権勢を誇ったらしく、ツァトゥグァ信仰を初めとする異教や異教を弾圧したが、ヒューペルボリア末期にはイホウンデー信仰は、復活したツァトゥグア信仰にとって変わられた。

 スミスは、1934年9月10日にバーロウに宛てた書簡の中で、イホウンデーと「フルートの奏者」ニャルラトホテップとの婚姻について述べている。その輪郭や暗示をしめす、ヒューペルボリアの預言者にして系図学者ノムの「Houndeh(イホウンデー?)はその神格の第三期において、混沌と腐敗の恐るべき響きを奏で続ける落とし子に保護された(あるいは交わった)」との「参照箇所」を書いており、「落とし子」はアザトースの周囲でフルートを奏でる従者(ここでは恐らくニャルラトホテップ)を指すとしている。
 また、この書簡の中でスミスは、イホウンデーの親についても触れている。アルケタイプの一種と思われるズィヒュメなる存在だという。
 どちらも実際の創作に表れることのなかった記述で、友人間の冗談に近いものかもしれないが、おぼろげな輪郭しか語られていないイホウンデーという存在を探る一つの手がかりとなるのではないだろうか。

 C・A・スミス『魔道師エイボン(The Door to Saturn)』


ヴーアミ

(Voormi/ヴーアミ)

特になし
***** *****

 大氷河時代前のヒューペルボリアヴーアミタドレス山の洞窟に棲む種族。人間に似てはいるようだが、毛深い毛皮に鋭い爪と牙を持ち、背丈は直立しても人間の腰か腿までしかない。性質は凶暴で野蛮であり、剣歯虎まで棲むヴーアミタドレス山の動物群の中でさえ、最も危険な生物だとされている。
 生産手段は狩猟や略奪であり、火を使うこともない低文明な生活を送っているが、ある程度の知能はあるらしい。

 伝説によると、原初の時代に地下の洞窟世界から現れた残虐な生物(アブホースの落とし子か?)と人間の女との間に生まれた生物であるという。

 C・A・スミス『七つの呪い(The Seven Geases)』


ヴォルヴァドス

(Vorvadoss/ヴォルバドス)

砂を騒がせるもの、外なる闇にて待つもの、焔を焚き付けるもの
旧支配者 旧神

 人類など歯牙にもかけない、或いは敵対的な存在が多数登場するクトゥルー神話において、特に人類の守護神的なイメージの強い存在である。最初の人類が原初のムー大陸に住んでいた頃にクトゥルーイグイオド達とともに崇拝され、滅びつつある他次元の生物がこの世界を侵略した際には最も雄々しく活躍したという。

 銀色の靄に包まれ、全知と怜悧さを感じさせる無感情な小さな目、異様な窪みや不可思議な曲面と平面によっ構成される異界的な<貌>を持つという、異様な姿だが、恐ろしい印象はなく、見ているだけで心が和むものだという。

 H・カットナー『侵入者(The Invaders)』


ウボ=サスラ

(Ubbo-Sathla/ウボ=サトゥラ)

自在する源、始源(はじまり) にして終末(おわり)、頭手足なき塊、無定型の塊
外なる神 旧支配者

 外宇宙からツァトゥグァヨグ=ソトースクトゥルーが来る以前から地球上に存在していた神であり、性質、形状などアブホースに酷似している。

 原書の地球の、蒸気と粘着物に包まれる沼の中にその身を横たえ、地球の生命の原形である単細胞生物を産み出したとされている。この神については「エイボンの書」に記されており、それによると地球上の全ての生物は、最終的にはウボ=サスラに還ると言う。「始源(はじまり)にして終末(おわり)」という記述は、無論これに由来するのだろう。 

 ウボ=サスラの存在は、クトゥルー神話における人類の起源の中でもっともメジャーな設定である、「古のものが地球の生命を創造した」と言う話と矛盾する。この矛盾を解決する説をあえて挙げるとすれば、「古のもの」が、家畜としての生物を創り出した後は増殖するに任せたという細胞群、原初の地球に野放しにされて増殖した細胞群だったというのはどうだろうか。ウボ=サスラの周りには、「天地創造以前の神々」の想像もつかない智慧が記された、星から切り出された銘板が散らばっていたというが、「古のもの」が宇宙からもたらした知識が記されていたのかも知れない。

 C・A・スミス『ウボ=サスラ(Ubbo-Sathla)』


エフィク

(Ephiqh/エフィック)

お喋りな小人族
***** *****

 サイクラノーシュヒューペルボリアでの土星の呼び名)に住む種族の一。大きなある種のキノコの幹を繰り抜いて棲んでいる が、キノコは数日の内に崩れて粉々になってしまうので、常に新しい住居を探している。
 ヒューペルボリアの魔導士エイボンとモルギが、ブフレムフロイムの領域とイドヒームの領域の間にある徒歩で一日の領域を旅したとき、彼らに遭遇したが、詳しく語るほどの出来事はなかったようである。

 C・A・スミス『魔道師エイボン(The Door to Saturn)』


大いなるもの

(Great Ones/特になし)

大地の神々、地球の神々
旧支配者 旧神

 地球の『夢の国』を支配している神々。と同時に、それ以上の力は持たない。人間に近い姿をしており、長く細い目、耳朶の長い耳、薄い鼻、尖った顎といった特徴を持つ(モアイに似ているという説があるが、どちらかというと仏像に似ているように思われる)。

 かつては『夢の国』の低い峰々に住んでいたが、姿を見られる事を厭うため、人間が高地に進出して来るにつれ徐々に、より高い峰に移り住み、今では『夢の国』の最高峰である「凍てつく荒野の未知なるカダス 」にある縞瑪瑙の城で、ニャルラトホテップを始めとする蕃神達に守護されて住んでいる(理由は不明)。今でも、曇った夜には雲の舟で、かつて住んでいた山頂を訪れ、青白い(もや)で山頂を覆い隠し、昔を偲んで踊り戯れると言う。その間は蕃神の守護を受けており、近づく人間は蕃神によって空に吸い込まれてしまう。

 また、「大いなるもの」のうち、若いものは人間との間に子をもうける事があり、カダスの近くにある『夢の国』北方のインクアノク等では「大いなるもの」の容貌や記憶、思考を受け継いだ者が多く住んでいる。

 H・P・ラヴクラフト『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』


オトゥーム

(Othuum/特になし)

クトゥルーの騎士
***** *****

 クトゥルーの従者の一人。かなりの力を持つ神性ではないかと考えられるのだが、北の深淵ゲル=ホーを拠点とする、ペシュ=トレン深みのものども等の眷族を従えるなどの他は全く不明である。

 スコットランド沖での海底火山サーツィーの浮上には、オトゥームオトゥームの力が働いているらしい。

 B・ラムレイ『盗まれた眼(The Rising with Surtsey)』